仕事をするうえで「評価されたい」「周りに認められたい」と思う人は多いでしょう。こうした承認欲求は、誰もが持っているものです。
承認欲求は、強すぎると対人関係などに影響する場合があります。一方で、適切に向き合えば、従業員の意欲やチーム内のコミュニケーションを支える要素にもなります。
本記事では、承認欲求の定義や職場での表れ方、承認欲求を活用したマネジメントのポイントを解説します。部下や同僚の承認欲求をうまく活用したい管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
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承認欲求とは、「他人から認められたい」「自分自身を価値のある存在だと認めたい」という欲求のことです。誰もが持っており、努力の源泉にもなる欲求の1つです。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間の基本的欲求を「生理的欲求」「安全欲求」「所属と愛の欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つに整理し、より優勢な欲求がある程度満たされると、次の欲求が現れやすくなると説明しました。
承認欲求は4段階目に位置づけられます。ただし、各欲求は完全に満たされてから次へ移るわけではなく、複数の欲求が同時に存在したり、順序が入れ替わったりする場合もあります。
またこの承認欲求は「欠乏欲求」に分類され、承認が足りていないと感じたとき、人は対処行動へと駆り立てられます。
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承認欲求と自己顕示欲の違い
承認欲求と自己顕示欲は、どちらも他者との関係のなかで表れる欲求ですが、焦点が異なります。
承認欲求は受動的な側面を持ち、利他的な行動につながることもあるといわれています。
承認欲求は相手から認められることを求める気持ちです。そのため、承認されるかどうかは、相手の評価に左右されるという意味で、受動的な側面を持つ欲求です。
さらに、相手から認められるためには、他者や社会の役に立つことが必要です。このことから承認欲求には利他的な要素が含まれます。
一方の自己顕示欲は、「自分を大きく見せたい」「自分に注目を集めたい」という気持ちです。相手の評価は気にせず、自分を大きく見せたり、自分の存在価値を示したりすることを追求します。そのため、能動的で利己的な欲求だといえます。
承認欲求との向き合い方
承認欲求は、適切に扱えば本人や周囲によい影響をもたらします。ここでは、承認欲求が必ずしも悪影響にならない理由と、承認欲求が悪影響をもたらす場合を解説します。
「承認欲求が強い=悪い」ではない理由
承認欲求が強いことは悪く思われがちですが、適切に働けば努力の源泉となり、仕事への意欲や周囲への貢献行動につながる場合があります。
前述したとおり、周囲から認められるためには、仕事で成果を挙げたり、周囲の人に貢献したりする必要があります。
そのため、承認欲求が強い人は、他者から高い評価を得られるように、強い向上心を持って努力する傾向があります。
仕事の面でこの向上心が発揮されれば、成果につながる行動を取りやすくなります。そして、この成果や周囲への貢献度を周囲から承認されると、「もっと頑張ろう」という内発的なモチベーションや、「自分はできる」という自己肯定感が高まります。
その結果、新しいことにもチャレンジしやすくなるでしょう。
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健全な承認欲求と過剰な依存の違い
承認欲求は、健全であればモチベーションの向上につながりますが、過剰に依存してしまうと人間関係に影響する場合があります。
承認欲求に関連する傾向は、称賛を得ようとする「賞賛獲得欲求」と、周囲からの批判や拒否を避けようとする「拒否回避欲求」に分けられます。
賞賛獲得欲求傾向が強すぎる人は、他者からの承認を求めるあまり自慢話が多くなりがちです。人の話を聞かず、自分の話が多くなるため、周囲から距離を置かれてしまうことがあります。
拒否回避傾向が強すぎる人は、他者に対して攻撃的になることがあります。批判に対して過度に反論したり、承認されている他者に嫉妬して攻撃的な言動を取ったりすることで、周囲と対立しやすくなります。
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職場における承認欲求の表れ方
承認欲求は職場にもさまざまな影響を与えます。ここでは、従業員の生産性や定着率に関わるモチベーションとエンゲージメントに注目し、これらに対する承認欲求の影響について解説します。
従業員のモチベーションへの影響
上司や同僚からの承認は、従業員のモチベーションを引き出します。
他者から称賛されると、人は「もっと褒められたい」「認められたい」と思うようになります。その結果、仕事の質を高めようとするモチベーションにつながります。
反対に、努力しても周りに認められなければ、モチベーションは低下します。従業員のモチベーションを維持するためにも、日常的に承認し合う文化を作っておくとよいでしょう。
さらに、より大きな仕事のチャンスや昇進の見通しがあることも大切です。将来的に成果が評価される見通しを持てることは、長期的なモチベーションの維持につながります。
短期間の効果を持つ日常的な承認とは異なり、長期的な承認は仕事へのモチベーションを安定させるのに効果的です。
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承認欲求とエンゲージメントの関係
自分の仕事が評価され承認欲求が満たされると、組織へのエンゲージメントが高まります。
Gallup社が2016年に公開し、2024年に更新した記事では、職場での承認は従業員のエンゲージメントや生産性、定着に関わる要素として紹介されています。
同記事では、米国労働者のうち「直近7日間で良い仕事に対する承認や称賛を受けた」と強く同意する人は3人に1人にとどまり、十分に承認されていないと感じる従業員は、翌年の退職意向を示す可能性が高いことも示されています。
国内でも、承認欲求と企業風土の関連を研究している太田肇教授は、離職の隠れた原因として承認不足を挙げています。若者の短期離職は、周りから認めてもらえないことが孤独感や自信喪失などにつながり、結果として短期離職に至ると主張しています。
また、中間管理職についても、上司からのプレッシャーや、部下から承認を得られないことがメンタル不調を引き起こし、休職や退職につながっていると指摘しています。
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マネジメントにおける承認の重要性
承認欲求への向き合い方は、従業員の意欲やチーム内の関係性に影響するため、マネジメントにおいて重要な観点の一つです。
上司が部下を承認するだけではなく、従業員同士で称賛し合ったり、部下が上司を称賛したりすることも大切です。定例ミーティングで褒め合う時間を設定したり、チーム内で表彰を行ったりして、日常的に成果やよい行動を褒め合い、承認欲求が満たされる組織風土を作りましょう。
一方で、過剰な称賛は部下にプレッシャーを与えます。部下は高い期待に応えようと常に背伸びをし続けた結果、疲弊してしまう場合があります。承認欲求の強さは人によって異なるため、部下にとって適切な承認の方法や頻度を把握しておくことが大切です。
承認欲求が強い人の特徴と関わり方
承認欲求が強い人は、適切に関わることができれば、高いパフォーマンスを発揮しチームによい影響を与えてくれることが期待できます。
ここでは、承認欲求が強い人の特徴と、強みを生かすマネジメントの考え方を解説します。
承認欲求が強い人の特徴・傾向
承認欲求が強い人は、自分に対する評価やフィードバックへの関心が高い傾向があります。
この傾向が過度に表れると、チームの協力体制を壊してしまうことがあります。
承認欲求が強い人は、高い評価を得ようと過剰に自己アピールしたり、ネガティブな評価を避けるために自己正当化をしやすくなります。また、嫉妬心や保身から攻撃的になり、チームの人間関係を悪くすることもあります。
一方で、適切に承認欲求に向き合うことができれば、高い意欲や貢献行動につながる可能性があります。高いモチベーションを持って、より高い成果を目指して努力するでしょう。
また周りから認められるために利他性を発揮すれば、協力的なチームを作れます。
承認欲求が強い人材をマネジメントするポイント
承認欲求の強さは、組織によい影響も悪い影響も与える可能性があります。承認欲求の強さを否定的に捉えすぎず、適切にマネジメントすることが重要です。
承認欲求が強い人を褒めるときは、事実に基づいて伝えることが大切です。特に、従業員自身が認めてほしいと感じている行動や成果を具体的に取り上げると、効果が高まります。
また、相手への期待を込めた目標を設定すると、期待に応えようと努力するようになります。目標を達成できれば、他者からの承認を得るだけでなく、自分で自分の成果を認められるようになり、他者からの承認だけに依存しにくくなります。
承認によってモチベーションが高まり、成長を実感できるようになると、従業員の主体性が育まれます。
承認が響きにくい人材への関わり方
承認欲求が強い人は承認がモチベーションにつながりますが、承認が響きにくい人はどのように動機づけるのがよいのでしょうか。
ここでは、承認欲求が低く見える人の特徴と、そうした人を動機づけるコツを解説します。
承認欲求が低く見える人の特徴・傾向
承認が響きにくいように見える人は、自分なりの判断軸を持っており、他者からの評価に左右されにくい傾向があります。
他者からの評価をあまり気にしないため、承認にも批判にも感情を大きく揺さぶられることが少なく、感情面で安定しやすい傾向があります。また、他者が承認されても過度に気にしないため、対人関係上の摩擦が少なく、寛容な面もあります。
一方で、「他者に認められるために頑張る」という外発的な動機づけは働きにくい場合があります。そのため、本人が何にやりがいを感じるのかを把握することが重要です。
しかし承認欲求が低く見える人でも、承認を全く必要としないわけではありません。承認以外のモチベーションの源泉も把握し、承認と掛け合わせてコミュニケーションを取りましょう。
本人に合った動機づけを見極める
承認が響きにくい人材には、ただ褒めるだけでなく本人が何をやりがいと感じるかを見極めることが重要です。
アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンは、内発的動機づけには、「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的欲求が関わると指摘しています。自律性は裁量、有能感は自身の影響力や能力、関係性は、他者とのつながりや相互に支え合う感覚を表します。
承認が響きにくいと感じる人に対しては、この3つのうち、どれが強く働くのかを見極め、伝え方を工夫しましょう。
例えば、自律性が重要なら称賛と共に裁量を持たせる、有能感を重視するなら行動に対するポジティブな結果(影響力)を伝える、関係性を重視するなら、仕事を任せたうえで謝意を示す、などが考えられます。
承認欲求に対する具体的なアプローチ
部下や同僚をただ褒めるだけでは、相手が十分に承認されたと感じにくい場合があります。
相手が納得できる伝え方や社内制度が必要です。ここでは承認の内容と伝え方、組織としての取り組み方、1on1での活用方法について解説します。
成果だけでなくプロセスを認める
他者を称賛するときは成果に注目しがちですが、結果がよくなくてもプロセスを褒めることで相手の承認欲求を満たすことができます。
承認欲求は内容ごとに以下の3つに分類できます。
- 存在承認:相手に興味・関心を持ち、存在自体を認めること
- 行動承認:行動自体、または望ましい方向への行動の変化に対する承認
- 結果承認:行動の結果に対するフィードバックや、結果自体の承認
成果だけでなく、結果までのプロセスに含まれる行動や着眼点、相手の成長や変化にも関心を払うことで、存在承認や行動承認もできるようになり、承認の機会を増やせます。
抽象的な称賛でなく具体的なフィードバックを行う
フィードバックを行う際は、具体的に伝えることが重要です。「頑張ったね」「すごいね」といった抽象的な褒め言葉は、言われた側も納得しにくいでしょう。
「昨日の商談資料は見出しがわかりやすかったね。○○さんがあの資料を作ってくれたおかげで受注につながったよ。」などのように、具体的な行動と結果を伝えると、褒め言葉への納得感が高まります。
周りに認められる行動がわかれば、さらなる称賛を求めてよい行動を増やしたり、行動の質を高めたりするようになるでしょう。自分の行動の良し悪しがわかれば、承認されることへの納得感が高まります。
タレントマネジメントで評価・育成の納得感を高める
従業員が称賛に対して納得感を持てるよう、企業として取り組める方法の一つに、タレントマネジメントによって人材情報を一元管理する方法があります。
スキルや経験、人事評価、日々の1on1などを一元管理すれば、評価やフィードバックの際に個人の成長や優れた行動・成果を具体的に伝えられるようになります。
上司やメンバーが変わった場合でも、過去の評価や記録を参照しやすくなるため、評価やフィードバックの一貫性を保ちやすくなります。
一貫性のある軸で評価を得られれば、自分の現在地や成長度合いを実感することができ、褒め言葉に対する納得感が高まります。
将来的にAIを活用する場合も、前提となるのは評価データや1on1の記録などを継続的に蓄積しておくことです。人材データが整理されていれば、評価傾向の分析や育成計画の検討に活用しやすくなります。
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1on1ミーティングで活用する
1on1ミーティングでも承認は有効です。
1on1では成果だけでなく、日常業務における工夫や取り組みに焦点を当てることで、具体的な承認やフィードバックを行いやすくなります。
上司が日々の行動に関心を払い、ポジティブなフィードバックを伝えることは、存在承認や行動承認に該当します。上司が自分を見てくれていると感じれば、部下のモチベーションは高まり、上司への信頼感も高まります。
またプロセスに注目した承認は、現在進行中の業務について「このまま進めればできる」という自己効力感も高めます。
さらに1on1では目標設定と振り返りを通じて、中長期的な視点で承認できます。具体的には、目標達成に対する称賛に加え、振り返りによる中長期のプロセスに注目した承認も可能です。
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評価基準を明確にし、納得感を高める
従業員が社内から認められると感じられるためには、評価基準が明確で透明性があることが重要です。
承認はむやみに褒めることではなく、内容に納得感があってはじめて、人は周囲から認められたと感じられます。
そのため、会社として従業員の承認欲求を満たすためには、従業員にとって納得感のある評価制度を整える必要があります。
評価基準が明確で、評価の根拠が丁寧に説明されていれば、従業員は会社からの評価を受け入れやすくなります。
評価の透明性を担保し、評価とその根拠を丁寧に説明することで、従業員の承認欲求を満たせるでしょう。
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まとめ
承認欲求は健全に満たせば従業員のモチベーションが上がり、協力し合うチームを作ることができます。
承認欲求と向き合う際は、単に褒めるだけでなく、日常的に従業員の成果や行動、成長過程に注目し、具体的に伝えることが重要です。
従業員一人一人の成果や日々の行動を把握し、具体的なフィードバックを行いながら、それぞれの承認欲求に適切に配慮しながら、人材マネジメントに取り組みましょう。
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従業員の承認欲求に適切に向き合うには、日々の成果や行動、1on1での対話、評価結果などを継続的に把握し、一人ひとりに合ったフィードバックを行うことが重要です。
情報が上司や担当者ごとに分散していると、従業員の成長や変化を捉えにくくなり、承認や評価の根拠も伝えにくくなります。
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人材データを時系列で蓄積することで、従業員一人ひとりの成果や行動、成長の変化を把握しやすくなります。蓄積したデータは、評価やフィードバックの根拠を整理する際に活用できます。
また、1on1の記録やキャリア希望とあわせて確認することで、従業員が何にやりがいを感じ、どのような承認や支援を必要としているのかを理解しやすくなります。
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