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組織開発は、組織内の人間関係に働きかけて課題を解消し組織の健全化を目指すものです。働き方が大きく変化する現代の日本においては、従来の人への教育よりも変化に対応できる手法として注目されています。本記事では、組織開発とは何か、従来の人材開発との違いやフレームワークについて解説します。組織開発の成功事例も紹介しますので、人事の課題解決に向けてぜひ参考にしてください。
そもそも組織開発とは何か?目的もチェックしよう
組織開発は、組織の健全化を目指すものとして近年注目されている手法です。英語のOrganization Developmentを略してODとも呼ばれています。1950年代にアメリカで開発されましたが、日本ではこれまで、あまり活用されてきませんでした。年功序列や終身雇用が中心の日本では、組織にアプローチする重要性があまり認識されなかったからです。働き方への変化が大きい近年では、日本国内でも組織開発への関心が高まっています。
組織開発の大きな特徴は、組織を構成する当事者自身が行動科学などの理論に基づいて課題を解決していくことです。組織開発の方法は一つではなく、組織の課題に合わせて最適な方法を使い分けることもできます。組織のメンバー間の関係性を良好にすることは、引いては組織全体の活性化につながります。そのためにおこなわれる取り組みや支援などをまとめて組織開発といいます。
日本での組織開発の歴史
日本では、1960年代に感受性訓練(ST:Sensitivity Training)が広まり組織開発に注目が集まりました。しかし、この手法では自己開示が過剰に求められるという欠点があり次第に利用されなくなったという経緯があります。1970年代以降は組織開発への関心が薄れていき、個人単位の学習プログラムが増えていきました。
2000年代以降に再度組織開発が注目されるようになったのは、バブル崩壊後の混乱も原因の一つと考えられています。企業が方向性を見失いがちになったことや、成果主義が導入され始めたこと、雇用形態の多様化などが影響しています。社員のコミュニケーションがうまくいかなくなり、孤立化や中間管理職の悩みが増加していきました。
組織開発の目的
組織開発を実践する目的は、導入する企業によって異なります。ただし、多くの企業が目指すものには共通する目的もあるので参考にすると良いでしょう。例えば、コミュニケーションを活性化させる、組織内の風通しを良くする、愛社精神や信頼関係の向上などです。また、業績に結び付く良好なチームワークの構築も見逃せません。現段階で組織に何が足りないのか、課題を洗い出してから目的を設定することが大切です。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
組織開発と人材開発との違い
従来から活用されている人材開発は、社内研修や実習などによって組織の人材を教育するものです。人材開発では組織内の人材がスキルアップすることを目指し、人へのアプローチをおこないます。組織に課題が見つかった場合、組織を構成する個人に原因があるとして知識や技術が向上するように教育するのが人材開発です。
これに対し、組織開発では人そのものではなく人同士の関係性にアプローチする点が大きく異なります。課題の原因を、人同士の人間関係やグループの人間関係などの関係性に着目する点が特徴です。組織に所属する全員が参加するワークショップなどにより、情報を共有しながら課題解決に向けて動くことができます。
組織のメンバーには、立場や業務内容によってそれぞれ異なる役割が与えられています。また、一人ひとりの成長する速度にも個人差があるため、上司といえども一概に部下の成長度合いは一方的に決められるものではありません。適切な手法で実施する組織開発は、上司と部下の人間関係にも良い影響を及ぼすため、組織全体にも良い変化が見られるようになります。
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組織開発が注目される背景
組織開発が注目されるようになった背景には、近年急激に変化しつつある働き方の多様化があります。従来のやりかたでは対応しきれない場面が増えてきたこともあり、組織自体の変革が進められつつある状況です。人材不足の昨今では多様な人材を活用する必要性が高まっているため、組織側にも柔軟な受け入れ態勢が必要になってきました。人間関係にアプローチする組織開発は、昨今の時流に合う手法といえます。
また、近年ではチャットやWeb会議などによる非対面でのコミュニケーションが普及しています。従来よりも対面でのコミュニケーションの機会は減りつつあるため、何らかの工夫をしないと、より良い人間関係を築くことはできません。これも、人と人のあいだにアプローチする組織開発が求められている要因の一つです。課題を解消するには、個人に合わせたアプローチをする人材開発をおこないつつ、人の関係性にも注目しなければなりません。
組織開発の基本的なプロセス
組織開発は、段階を踏むことを意識すればスムーズに進めることができるでしょう。特に決まった方法はありませんが、基本的なプロセスはあるので紹介します。
目的を明確にする
はじめに、組織が目指すものは何か、組織開発をおこなう目的を明確にします。組織によって目指すものは異なるため、目的を明確にしてから組織全体で共有することが大切です。それには、目的を具体的な言葉で表し全員が認識できるようにします。例えば、グループ間のコミュニケーションを活性化したいケースでは、従来ではつながりがなかった部分に着目して協力できる体制を目指します。現状では新たなアイデアが出ていないという課題であれば、社員が柔軟な発想で意見を述べる機会を持つためのサポート体制作りが目的になるでしょう。
現状を把握する
次に、組織の現状を言語化してから全員で共有します。このプロセスでは、課題を絞り込むためにより具体的な現状把握をすることが大切です。個々が持つ主観的なイメージではなく、データや客観的な事実をもとに現状分析をおこないます。組織内の人間関係や現状のコミュニケーションの取り方などを可視化すれば、次のプロセスも進めやすくなります。普段の人間関係やコミュニケーションの状況などは目に見えないものです。現状を適切に把握すれば、現場が疲れているなどの漠然とした印象ではなく明確な課題を設定するための材料になるでしょう。
事実やデータをもとに現状を把握したら、次は課題を設定します。個人に問題があるとする人材開発とは異なり、組織開発では人と人、グループ間などの関係性が原因と捉えます。個人の課題とは異なり、複数の要因が見えてくることが多いのも組織開発の特徴です。さらに、いくつもの要因が複雑に絡み合っているケースも多く見られます。
このような複雑な要因を整理して課題を明確にするには、アンケートやいくつかの調査などを実施する方法があります。丁寧な聴き取りや調査によって、できるだけ客観的な情報を集めることが大切です。こうして集めたデータをもとに課題を洗い出し、解決方法は何かを決めていきます。このとき、課題や解決方法を組織のメンバー間で共有しながら、組織開発が必要であることも伝えるのがポイントです。組織開発の中心はあくまでも組織のメンバー1人ひとりなので、全員が必要性を認識することが大切です。
組織開発を実践する
課題と解決方法を設定したあとは、課題解決に向けて具体的な実践プランを策定します。長期間に渡る組織開発は、時間をかけて進めていくものです。そのため長期的な視野に立った計画も必要ですが、さしあたっては短期的なプランを立てて実践することが大切です。いきなり大きなものを目指すよりも、段階を踏んでいくほうが成功しやすいでしょう。
組織開発を実施するにあたっては、スモールスタートで小規模にはじめるほうが着実に進められます。例えば、課題解決が必要な部署内の小さなグループへ短期間のミーティングをおこなうなどすれば、成果を上げやすいです。小規模で短期間のアクションを実践し、徐々に組織全体に広げていくと良いでしょう。
検証とフィードバックをする
組織開発を実施したら、検証とフィードバックを必ずおこないます。実践し解決したからと終わるのではなく、今後の組織開発に生かすために、得られた成果の検証とフィードバックが必要です。小規模の実践結果で成果が出れば、ポイントになるものは何かを分析しデータをわかりやすく整理します。
はじめにおこなった小規模のプロジェクトチームで成果が出れば、成功事例として組織全体で共有することが重要です。事前に組織全体で素早く共有できるシステムを構築しておくと、成功事例などの分析結果などがすぐに組織全体に行き渡ります。一つの成功事例の情報は、ほかのプロジェクトチームや部署間などでも活用できるので共有することが大切です。組織の課題が解消されないケースでも、検証とフィードバックを繰り返しおこなうことで改善点が見つかりやすくなります。
組織開発のフレームワークには何がある?
組織開発のフレームワークは複数あるので、組織の課題に最適なものを選んで活用しましょう。ここでは、主な組織開発のフレームワークを紹介します。
コーチング
コーチングはスポーツの指導という印象が強いかもしれませんが、もともとは相手の自主性に働きかける手法です。ビジネスの手法としても多く活用されるようになってきました。コーチングでは、コーチをする相手の中に解決方法があることが前提になります。そのため、コミュニケーションをしっかり取りながら相手が自分でも気づかないような内面にある答えに気づくようにサポートします。
組織開発でコーチングを実践するときにも、課題には解決策があることを示して相手の気づきを引き出します。自分の中に解決策があるとし、相手の話をよく聴くなどしながら、必要に応じて提案することもあります。はじめから答えを教えるわけではないのでティーチングと同じではありません。また、コーチングのほうがコミュニケーションは活発になります。
フューチャーサーチ
フューチャーサーチでは、組織の過去や現在、未来について時系列に沿って話し合いをおこないます。参加者は60名程度で、3日間など数日に渡ってミーティングをおこなうのが特徴です。参加者は主催者が集めるのも特徴で、組織のメンバーのほかに顧客や業者、地域の住民なども招待されます。
フューチャーサーチでは、設けられたテーマについてグループごとや全体での話し合いをします。組織の未来について、多様な立場からの意見を述べることで明確なビジョンを描いていくものです。フューチャーサーチは、参加者が全員で納得できる共通の価値を見つけるための手法です。
ワールドカフェ
ワールドカフェは、カフェをイメージしたゆとりのある空間の中で実施されるフレームワークです。気楽に話すことができるので、参加者が数百人など大人数になっても対応できる点ても注目されています。一般的な会議の場合は、どうしても雰囲気が固くなりがちです。そうすると社員は委縮してしまい、自由な意見が出にくくなってしまう可能性もあります。
ワールドカフェは、グループメンバーの入れ替えや少人数に区切っての議論などもできるため、場面に応じてフレキシブルに対応できます。自由な雰囲気の中で話し合うのが特徴なので、聴き手と話し手のどちらの意見も伝えやすくなるのがフレームワークです。例えば、メンバーの自由な意見を知りたい、柔軟なアイデアが欲しい、上下関係にかかわらない議論がしたいなどの課題がある組織の課題解決に向いています。
AI
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)は、Appreciative(価値が分かる)、Inquiry(探求)の頭文字から名付けられています。組織が持つ課題などを探求することで、個人だけでなく組織の価値も認めていくフレームワークです。肯定的な捉え方をするAIは、ポジティブアプローチとも呼ばれています。
AIは4つのD(発見・夢・設計・実行)のステップを踏むことで、メンバーの意見や想いを組織全体で共有できます。将来のビジョンを共有できるメリットがあり、より良い組織改革を目指すことができるフレームワークです。社員への質問を通して、本人でも気づきにくい個人の夢や強みなどを引き出すものです。これによって、新たな気づきや自分のポテンシャルを見出す機会にもなります。組織のメンバーの視野が広がり、組織全体の将来を見据えた計画を全員が合意して作ることができます。
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッション・ビジョン・バリューは、ミッション(組織の存在意義)、ビジョン(組織が目指すべきもの)、バリュー(組織の価値観)の3つの要素からなるフレームワークです。組織をより良く成長させるために、3つの要素をメンバーに浸透させることで組織の存在意義が明確になります。その結果、組織開発への理解が深まっていくメリットが得られます。
OKR
OKR(Objectives and Key Results)は、目標管理のフレームワークです。企業やグループ、個人が同じ目標に向かって計画を進めていきます。到達したい目標や達成可能な目標ではなく、ワンランク上の目標を設定するのがポイントです。これにより、組織とメンバーが同じ方向に向かい課題や目的を把握できます。大手IT企業なども注目し活用している手法です。
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7S
7Sは組織に不可欠な7つの経営資源について表したもので、組織開発においても活用できるフレームワークです。大手コンサルティングファームによって開発されました。戦略(Strategy)、組織構造(Structure)、システム(System)というハード面と、共通の価値観や理念(Shared value)、経営スタイル(Style)、人材(Staff)、スキル(Skill)をキーワードとして名付けられました。7Sは、組織運営に欠かせない重要な経営資源を活用して組織の課題解決に最適な事業戦略を練るフレームワークです。
知っておきたい組織開発のポイント
組織開発を進める上で把握しておきたいポイントは2つあります。1つ目は、ワークショップや研修などを取り入れる際の注意点です。ワークショップなどを実施する回数は少なすぎても効果が出にくく、定期的におこなうと形骸化してしまう可能性もあります。例えば、管理職を育てるのであれば、あらためて管理職としての役割は何か、権限はどこまでかなどを再確認してから研修をおこなうのが効果的です。また、1on1の場合はミーティングの状況や内容、満足度などを具体的に分析する方法が良いでしょう。研修やワークショップをより有効活用するには、従来の制度を見直し変更するなどの思い切った方法も併せておこなうのがポイントです。
2つ目は、組織の上層部が組織の課題を把握して改善したいという強い思いを持つことです。組織のメンバーには上層部の姿勢が次第に伝わっていきます。より良く変えたいという強い信念や危機感があれば、組織全体に伝わっていくでしょう。こうしたトップの強い想いを受けて変化を受け入れるメンバーが増えるほど、組織開発を進めやすくなります。また、同時に上層部がメンバーを信頼している姿勢を示すことも大切なポイントです。多くのルールで縛れば人事面は楽になるかもしれませんが、信頼されていないと感じられてしまうデメリットもあります。組織開発を実施する場合、トップとメンバーの互いの信頼関係があるほうがスムーズに進むでしょう。
組織開発の成功事例
組織開発を活用して成功している企業の事例を紹介します。これから組織開発を実施する場合、それぞれの成功事例を参考にすることをおすすめします。人事の課題を解決するためにも、それぞれの企業が成功したポイントを押さえておきましょう。
メルカリ
メルカリでは、組織開発を進めるためのフレームワークとしてOKRを導入してきました。メルカリの企業理念の一つである「All for One(全ては成功のために)」の実現のためです。組織と社員が目指すものを一致させながら、ともに成長していくことを目指しています。導入されたOKRが、すでに企業風土として馴染んでいる成功事例の1つです。
株式会社グッドパッチ
株式会社グッドパッチが組織開発に取り組み始めたのは、事業が急拡大したためです。海外進出を果たすなど順調な経営によって、社員数が大きく増えました。採用された新入社員の人材育成が進まないなど、経営方針がうまく伝わらない課題も生まれました。2017年からは、知識や技術を全体で共有するナレッジシェアリングの強化を開始しています。企業理念を見直しOKRを導入するなどの組織開発を実施してきました。その結果、従業員エンゲージメントの向上につながっています。現在も現状把握や社員へのヒアリングを適切に実施して、組織開発を継続しています。
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参天製薬株式会社
参天製薬株式会社では、社員の自発性を尊重するために決定する場面を支援しています。組織開発がうまくいったプロジェクトについては、ほかのリーダーに目的意識を共有するようにしてきました。外部コンサルタントに方向性を示してもらいながら、現場の視点を重視して取り組みに活かしています。自分たちでやりたい方向性を考えられる状況づくりを大切にして、対話しながら目標を具体的に共有することを意識してきました。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスでは、人材開発と組織開発を併せて実施しているのが特徴的です。開発を発達することと捉えて、個人への1対1でのアプローチのほかに、グループ間や組織全体へのアプローチも実施しています。人事の課題を解決するために、近年注目されているHRテクノロジーを活用している点も成功のポイントと考えられています。テクノロジーによって膨大なデータを連動させることが可能になるため、社員の傾向を分析して人材開発と組織開発の両方に活用できます。これからの企業が目指すべき方向性を示している成功事例です。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は1on1を活用した組織開発を実施していることで知られています。1on1ミーティングは取り入れたからと言って必ずしもうまくいくとは限りません。ヤフー株式会社では、1on1を有効にするために上層部へコーチング研修を実施するほか、社員からのフィードバックなどがおこなわれています。上層部へのコーチングでは、聞きかたや1on1の効果をフィードバックする方法を学びます。また、組織サーベイの情報共有で、社員が自発的に課題の改善に取り組めるシステムもあります。「社員の才能と情熱を解き放つ」という企業理念のもと、多様な施策を導入してきました。組織開発の先駆企業として、社員と組織が共に成長してきました。
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楽天株式会社
楽天株式会社は、2018年に楽天ピープル&カルチャー研究所(Rakuten People and Culture Lab)を設置しました。世界中のデータを集めることや、楽天グループの実証実験から企業文化や組織開発などの理論体系を構築するのが目的です。多国籍の社員が勤務する楽天グループでは、多様な組織カルチャーが経営に与える影響や貢献の度合いを研究しています。これらの試みは、組織開発において有効なデータの蓄積や課題の解決に大きく寄与していると考えられています。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社では、独自の企業文化を取り入れた組織開発を実施しています。企業と個人のつながりを大切にするビジョンを「Mission & Values」で表しました。これは、人間らしさを大切にした成長を宣言するものです。2002年に赤字になりましたが、翌年には黒字へと回復しました。その後は店舗数を順調に増やしています。ミーティングの際に行われるアイスブレイクに、テイスティングを取り入れるなど、場の雰囲気を和らげる工夫をおこなっています。学生のアルバイトの入れ替わりが多いのですが、社員全員をパートナーという名称で呼んでいるのも特徴です。
まとめ
組織開発と人材開発の違いを理解して人事の課題を解消しよう!
組織開発と人材開発は混同されやすいので、それぞれの特徴や違いを把握しておくことが大切です。組織開発には多様なフレームワークがあるので、企業の課題に対応できるものを選んで実践することをおすすめします。企業の成功事例も参考にしながら、組織開発の基本的なプロセスを意識して適切に進めるなら、人事の課題を解決することもできるでしょう。