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ビジネスシーンや日常生活において、二つの選択肢からどちらかを選ばなければならない場面があります。そのようなシーンで使用される言葉に挙げられるのが「ジレンマ」です。本記事では、ジレンマの概要や事例とともに、ジレンマを解決するためのポイントについて解説します。
ジレンマの意味とは?
ジレンマとは、二つの相反する選択肢があり、どちらを選んでも不利益を被るために迷いが生じる状態を指します。例えば仕事を優先すれば家族の時間が減り、家族の時間を優先すれば収入が減る状況で迷うことは、ジレンマを抱えている状態です。
自分の選択肢だけによるものではなく、他人の介在により発生するジレンマも存在します。自分では新製品のAを購入しようとしていたが、家族からはAよりも安い既存製品のBの購入を要求され、思い悩んでしまうこともジレンマです。
どちらの選択肢を選んでも望ましくない結果となることだけではなく、簡単に判断できない選択肢を前にして困っている状態も、ジレンマを抱えている状態といえます。
ジレンマを日本語で言うと
ジレンマは元々ラテン語の「dilemma」を語源としています。dilemmaは、二つを意味する「di」と、仮説や前提を意味する「lemma」が組み合わされた言葉です。元々の言葉自体には「迷い」の意味はないものの、現在では「迷い」の意味を持つようになりました。ジレンマを日本語で言い換えるとすると、以下のものが挙げられます。
- 板挟み:二つの対立している意見に挟まれ身動きがとれない状態
- 葛藤:心の中に相反する動機や欲求、感情があり、どれを選べばいいのか迷うこと
- 窮地:苦しい立場や困った状況に置かれている状態
- 苦境:苦しい境遇や状況、立場のこと
この中でいえば、板挟みや葛藤が、ジレンマに近い意味を持つ日本語といえるでしょう。
ジレンマに陥る理由
人の思考には、主観的なものと客観的なものが存在します。
主観的な思考は個人的な合理性が判断基準になっており、客観的な思考は社会的な合理性が判断基準になっているといえるでしょう。つまり、人は判断基準を少なくとも二つは常に持っていることになります。
ジレンマに陥るのは、個人的な合理性と社会的な合理性の判断結果に乖離があるときです。個人的な合理性と社会的な合理性で判断した結果が同じ、もしくは近ければジレンマには陥りません。しかし、二つの判断基準で判断した結果が乖離していた場合、どちらを選択すればよいのか迷いが生じます。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
ジレンマの有名な例
ジレンマの有名な例として、以下の3つが挙げられます。
- ヤマアラシのジレンマ
- 囚人のジレンマ
- トロッコ問題
ここでは、それぞれのジレンマについて解説します。
ヤマアラシのジレンマ
ヤマアラシのジレンマとは、ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーの寓話をもとにしたものです。ヤマアラシは体中にトゲがある動物です。ヤマアラシ同士が近づくと、お互いのトゲでケガをしてしまいます。
寒さをしのぐ際、お互いの身を寄せ合うことにより暖をとれますが、身を寄せ合えばケガをしてしまうため、距離をとる必要があります。この「寄り添う・離れる」の距離感のジレンマを人間関係に例えたものが、ヤマアラシのジレンマです。
例えばお互いに好意を持っている友人関係の異性同士が、好意を伝えて恋人関係に発展したいものの、それを伝えることにより今の関係性が壊れるのを恐れるといった状態がヤマアラシのジレンマに該当します。
囚人のジレンマ
囚人のジレンマとは、囚人の取り調べにおける事例をもとにした考え方で、ゲーム理論のひとつです。利害関係を持つ相手と自分がいた場合、個人にとって合理的な選択が必ずしも相手の行動を促す理由にはならないことを意味します。
例えば、主犯格と共犯者が別々の部屋で取り調べをした際に、主犯格の囚人に以下の3つの提案をしたとします。
- 「あなたが自白して共犯者が黙秘をした場合、あなたを釈放して共犯者だけが罪を被り、10年の刑期を課します」
- 「2人とも黙秘した場合、2人とも本来より短い刑期である3年で釈放します」
- 「あなたも共犯者も自白した場合、刑期は本来の5年のままです」
この場合、主犯格は自白すれば刑期はゼロまたは5年なのに対し、黙秘した場合の刑期は3年または10年です。2人ともの刑期がなくなる選択はないため、お互いのことを考えれば2人が3年の刑期となるB案を選択し、黙秘するのが最善の選択です。
しかし、刑期がなくなるという利益の大きさに魅力を感じ、主犯格は自白をしようと考えてしまいます。このように、お互いが協力すればリスクを軽減できるとわかっていても、自分の最大利益に魅力を感じて協力をためらう状況を囚人のジレンマと呼びます。
トロッコ問題
トロッコ問題とは、制御が効かなくなったトロッコを目の前にしたときのジレンマを例にして、命の価値観を問う問題です。問題の選択肢は以下のとおりです。
- なにもしなければ、トロッコは5人の作業員に突っ込む
- レバーを引けば進行方向が切り替わり、1人の作業員のもとに突っ込む
レバーを引けば5人の命を救えますが、1人の命を失う可能性があります。数だけ考えれば、合理的なのはレバーを引くことでしょう。しかし、レバーを引くことにより、本来助かるはずの1人の命を奪うことになります。
単純な失われる命の数だけでなく、自分が行動するかどうかも判断基準です。どちらをとっても犠牲者がでる選択肢であるため、ジレンマの具体例として使用されます。
日常生活におけるジレンマの具体例
日常生活におけるジレンマの具体例として、健康や消費、環境に関するものが挙げられます。ここでは、それぞれのジレンマについて解説します。
健康と収入に関するジレンマ
健康と収入に関するジレンマの具体例は以下のとおりです。
- 残業時間を増やして収入を増やすが、睡眠時間を削る
- 残業時間を減らして早く帰宅し、睡眠時間を増やす
Aを選択して残業すれば収入は上がりますが、帰宅時間が遅くなり、睡眠時間が少なくなる可能性があります。Bを選択すれば、睡眠時間を増やし健康的に過ごすことができますが、Aに比べると収入は減るでしょう。
健康を優先すれば収入が減り、収入を優先すれば健康が犠牲になるという迷いが、ジレンマが生じている状態といえます。
消費と貯蓄に関するジレンマ
消費と貯蓄に関するジレンマの具体例は以下のとおりです。
- 豪華な海外旅行に行く
- 旅行を控えて、老後の生活資金として貯蓄する
Aは、即時的な楽しみと思い出を得られますが、将来の経済的安定性を犠牲にする可能性があります。一方、貯蓄を増やすことは将来の安定につながりますが、現在の人生経験や楽しみを制限することになります。
現在の生活の質と将来の経済的安定性のバランスを取る必要があり、どちらを選んでも一長一短があるというジレンマに直面します。
環境と利便性に関するジレンマ
環境と利便性に関するジレンマの具体例は以下のとおりです。
- 目的地まで早く移動できて楽なため、マイカーで向かう
- 移動時間はかかるが環境を考え、公共交通機関を利用して向かう
Aを選択すると、自宅から駅やバス停に行く労力や時間は軽減されますが、マイカーによる排気ガスの排出で環境には悪影響が懸念されます。Bを選択すると、駅やバス停に行く労力や時間がかかるものの、排気ガスの排出は抑えられます。これは個人の利便性(時間や労力の節約)と社会的利益(環境保護)の間で生じるジレンマを表しています。
ビジネスシーンにおけるジレンマの具体例
ビジネスシーンにおけるジレンマの具体例として、以下の3つが挙げられます。
- イノベーションのジレンマ
- 利益のジレンマ
- 品質とコストのジレンマ
ここでは、それぞれのジレンマについて解説します。
イノベーションのジレンマ
イノベーションのジレンマとは、新規事業の立ち上げや革新的技術の導入時に発生するジレンマです。特に大企業で発生する傾向があります。大企業は、新しい事業を始めるまでに複数回の承認や決裁が必要です。そのため、革新的技術の導入までに時間がかかります。スタートアップ企業やベンチャー企業であれば、新しい事業へのチャレンジもわずかな承認や決裁で済むため、スピーディに対応できます。
既存事業に注力するあまり、革新的技術の導入に後れをとり、予算や人数で上回っているはずの大企業がベンチャー企業に先手を打たれてしまうケースは珍しくありません。
わかりやすい事例として挙げられるのは、スマートフォンのカメラにシェアを奪われたアナログカメラ企業です。抱える従業員の業務や人件費を確保するために安定した事業の継続が必要なことと、革新的技術を導入して事業を大きくすることでの選択で、ジレンマが発生しています。
利益のジレンマ
利益のジレンマとは、利益を確保する方法の選択で発生するジレンマです。
企業の継続には、安定した利益の確保が欠かせません。そのため、目先の赤字を恐れ、必要なコストを削減してしまうケースがあります。具体例として挙げられるのは「お客様が利用できる駐車台数を削減する」「人件費を削減するために派遣社員の人員を削減する」などです。これらは駐車場代や人件費が削減できるため、短期的には利益となるでしょう。しかし、業績が上がり、お客様が増えれば駐車台数が必要です。
派遣社員の削減により、業務が回らなくなり、正社員が対応しなければならないケースもあるでしょう。その場合、長期的にみるとコストがかさんでしまいます。目先の利益と長期的な利益の選択でジレンマが発生しています。
品質とコストのジレンマ
品質とコストのジレンマとは、品質に対する価格を設定する際に発生するジレンマです。
品質を向上させるためには、教育訓練や設備の導入などの投資が欠かせません。品質への投資は顧客に対する価値提供やブランドイメージの向上、利益の拡大にもつながります。しかし、品質への投資には時間やコストがかかるため、低価格での提供が難しくなります。採算を取るためには価格を上げる必要がありますが、それにより販売数が減少する可能性があります。
一方、品質を向上させずに現状のまま提供することで低価格を維持できるかもしれませんが、顧客満足度は下がる可能性があります。品質に対して、価格をどの程度に設定すれば顧客に満足してもらえるのかという迷いがジレンマを生じさせています。
人事担当者が陥りやすいジレンマの具体例
人事担当者が陥りやすいジレンマも存在します。具体例として挙げられるのは、人事評価や人材育成、人員削減です。ここでは、それぞれのジレンマについて解説します。
人事評価のジレンマ
人事評価のジレンマとは、評価基準の設定時に発生するジレンマです。例えば以下のような人材がいたとします。
- 新しいことに挑戦し、大きな成果を上げることもあるが失敗も多い
- 既存業務にコツコツ取り組み、結果的にAよりも安定した成果を上げている
このような人材がいた際に、どちらの人材を高く評価するのかでジレンマが発生します。
Aの人材は、リスクは高いものの、大きな成果を上げる可能性があります。Bの人材は、失敗こそ少ないものの、大きな成果を上げる可能性は低いでしょう。
安定した成果という点ではBかもしれませんが、イノベーションを起こせる可能性が高いのはAです。これは、短期的な成果と、将来に対する挑戦のどちらを重視するのかというジレンマの例です。
人材育成のジレンマ
人材育成のジレンマとは、人材育成とそれを進めるうえでのリスクとの選択で発生するジレンマです。企業の成長にとって、人材育成は欠かせません。人材育成を進める方法として研修の実施が挙げられます。
ただし、研修には講師が必要です。現場の従業員が講師になったり、外部講師を招いたりしなくてはなりません。現場の従業員が講師になった場合、現場が人手不足に陥る可能性があります。
一方、外部講師を外注すればコストがかかります。人材育成の重要性を頭では理解しつつも、人手不足やコストとの兼ね合いにより、ジレンマが発生してしまうのです。特に、人員と予算が限られていることが多い中小企業で発生するケースがあるでしょう。
採用のジレンマ
採用のジレンマとは、どのような人材を採用するのかで発生するジレンマです。
例えば、中途で採用するのであれば、即戦力となる人材を採用できますが、価値観のミスマッチが発生する可能性があります。一方で、新卒や未経験者の採用であれば企業文化の継承がしやすい半面、戦力になるまでは教育や時間が必要です。
価値観のミスマッチが起こるリスクを負っても即戦力を採用するのか、育成を見据えて新卒や未経験者を採用するのかでジレンマが発生します。また、採用ターゲットの設定でジレンマが発生するケースもあります。自社が求める条件をすべて満たした人材は簡単には見つかりません。
企業や募集するポジションによって異なるものの、能力や特性、価値観など条件に優先順位をつける必要があります。例えばリーダーシップを持った人材がよいのか、リーダーをサポートするタイプの人材がよいのかというケースがあります。採用のジレンマは、採用してみなければ答えがわからないことにより発生するジレンマといえるでしょう。
ジレンマを解決するためのポイント
ジレンマには多様な種類があるものの、陥る理由は二つの判断基準で判断した結果が乖離していたことによるものです。ジレンマを解決するためのポイントとして挙げられるのは、以下の3つです。
- 客観的分析
- 妥協点の模索
- 第三者の評価
ここでは、それぞれのポイントについて解説します。
客観的分析
ジレンマに陥るのは、二つの判断基準があるためです。そのためジレンマに陥った際は、問題を客観的に分析し、判断基準を1つにすることにより解決につながります。
客観的な分析には、フレームワークを使用するのが有効です。ジレンマの解消に有効なフレームワークとして、TOC思考プロセスが挙げられます。TOC思考プロセスとは、目的達成を阻害する制約条件を見つける問題解決手法です。
「何を変えればよいか」「何に変えればよいか」「どのように変えればよいか」の3つの問いを、5つのツリーを作成しながら掘り下げることにより解決策を見つけ出します。どのような判断基準にすればよいのか迷う場合は、客観的分析をしてみましょう。
妥協点の模索
他人の介在により発生するジレンマを解決するには、双方が納得できる妥協点を見つけることがポイントです。双方の妥協点を見つけ出すには、お互いの考えを深掘りする必要があります。まずは、5枚の紙を用意したうえで以下の手順どおりに進めてみましょう。
- 1枚ずつ紙を取り、双方の要望をそれぞれの紙に書く
- 再び1枚ずつ紙を取り、双方が要望によってどうなりたいのかを書く
- 双方の要望の共通点を見つけ出し、1枚の紙に書く
- 共通した要望を満たすための方法を考える
他人の介在により発生するジレンマは、どちらかが妥協した場合、妥協した人が不満を抱えてしまう可能性があります遺恨を残しかねません。そのため、双方が納得できるよう、お互いの意見を確認し合いながら解決策を探ることが大切です。
第三者の評価
他人の介在により発生するジレンマを解決するには、第三者の評価をもとにする方法もあります。ジレンマに陥ったときは、二つの判断基準が存在しているのは前述したとおりです。
しかし、その判断基準がどちらも主観的な判断基準になっているケースも存在します。その場合、関連した情報を集め、第三者の評価をもとに判断することも有効です。
例えば新製品の開発でいえば、第三者の評価を分析し、その結果をもとに方向性を検討すれば判断しやすくなります。市場調査や競合調査、消費者傾向などのデータを活用しましょう。
タレントマネジメントシステムの活用
人員配置や人事評価、採用者の方向性など、人事担当者がジレンマに陥らないためには、タレントマネジメントシステムの活用が有効です。従来の人事業務は、担当者の勘や経験に頼った主観的な意思決定を行わざるを得ない状況が多くありました。
勘や経験は数値化できない部分を見抜けるメリットがあるものの、不公平感のある評価を生み出す原因にもなっていました。タレントマネジメントシステムを活用すれば、勤怠やパフォーマンス、研修の受講状況などの従業員に関するさまざまなデータを一元管理できます。
タレントマネジメントシステムの中には、ダッシュボード機能が搭載されているものも存在します。それにより、エビデンスに基づいた納得感のある人事評価や戦略的な人材配置が可能です。
<関連記事>【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法
まとめ
ジレンマの解決には客観性と納得感が重要です。
ジレンマとは、二つの相反する選択肢を選ぶ際に迷いが生じる状態を指します。個人的な合理性と社会的な合理性の判断結果に乖離があるときに、ジレンマが生じます。
ジレンマを解決する方法として挙げられるのは、客観的な分析や妥協点の模索、第三者の評価です。ジレンマに陥った際は、主観的な判断基準だけで決めるのではなく、客観性と納得感のある判断基準をもとに判断しましょう。
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