ジョブローテーションとは?目的・メリット、時代遅れかを検証

ジョブローテーションとは?

従業員の育成は、企業の抱える重要な役割であり課題の一つです。

どのような方法で育成を行うかによって、従業員の成長や得られる知識・スキルは変化し、モチベーションにも影響を及ぼします。

本記事では、日本の多くの企業が導入している育成制度の一つである「ジョブローテーション」について解説します。

「無駄」「時代遅れ」という意見もある中で、人事におけるジョブローテーション制度の目的や意味、メリットやデメリット、導入の流れや注意点もあわせて紹介します。

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ジョブローテーション(制度)とは?

ここでは、導入前に把握しておきたいジョブローテーション制度の基本的な知識を解説します。

ジョブローテーションの意味

ジョブは仕事を、ローテーションは回転や循環を意味する言葉です。

「ジョブローテーション」とは、企業内において特定の従業員に複数の部署での業務や職種を経験してもらい、育成に役立てる制度を指します。

ローテーションの表現の通り、企業内を循環する形で異なる部署や職種をいくつも移りわたる点が大きな特徴です。

単なるたらい回しではなく、人材育成計画にもとづいて戦略的に実施するため、ジョブローテーションは「戦略的人事異動」や「計画的人事異動」とも呼ばれます。

ジョブローテーション実施期間や頻度

ジョブローテーションの対象となる部署や職種に従事する期間はさまざまです。

企業ごとの状況や育成目的、あるいは従業員の特性により変わります。短いケースでは半年、一般的には3年〜5年程度を目安に次の部署や職種へと移ります。

新入従業員など若手に対して行われる場合は、短いスパンかつ高頻度で実施することも珍しくはありません。適性の見極めや企業に慣れてもらうことを目的とするケースが多いためです。

一方、幹部の育成ではある程度長い期間で頻度を抑えながら実施されます。部署ごとの業務や状況の把握、人間関係の構築なども必要となるためです。


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ジョブローテーションは時代遅れ?現代における有効性を検証

人手不足や社会の情報化が進む中で、ジョブローテーションは時代遅れと指摘されることも増えています。

現代におけるジョブローテーションの価値について、ジョブ型雇用やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)などの関連性と絡めて解説します。

ジョブ型雇用の浸透とジョブローテーションの位置づけ

「ジョブ型雇用」と「ジョブローテーション」は対照的な制度です。

ジョブ型雇用は、職務内容を明確に定め、その職務に適した人材を採用・配置する仕組みで、人材それぞれの専門性を重視します。

一方、ジョブローテーションは、メンバーシップ型雇用のもとで実施され、従業員をさまざまな部署に異動させることで幅広いスキルを習得させる制度です。

ジョブローテーションのメリットは、従業員の適性を見極めやすくなること、社内の多様な業務経験を通じて組織の柔軟性を高めること、長期的な人材育成にもつながります。

多様性時代におけるジョブローテーションの意義

ジョブローテーションは、D&Iを推進するうえで重要な役割を果たします。

D&Iは、多様な人材が活躍できる環境を整え、個々の能力を最大限に生かす考え方です。

ジョブローテーションを活用することで、管理職や従業員本人が気づかなかった潜在的な能力を発見し、適性に応じた配置が可能になります。

また、女性従業員のキャリア形成を支援し、リーダーとしての成長機会を提供する手段にもなります。

しかし、従業員ごとのスキルや能力と関係なく、一方的にジョブローテーションで配属を何度も変えてしまうと、D&I推進に逆効果という意見もあります。

多様な人材の活躍を促進し、組織のイノベーションや生産性向上につなげるためのジョブローテーション運用方法を考え、制度設計する必要があるでしょう。

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デジタル化時代に求められるジョブローテーションの進化

DX(デジタルトランスフォーメーション)時代では、デジタル人材の育成や組織力向上を目的としたジョブローテーションの運用も可能でしょう。

今までデータやテクノロジーと無縁だった部門の人材をエンジニア職やデータ分析部門にローテーションさせて、全従業員のデジタルリテラシーを向上させれば、非IT部門のDXを後押しできます。

反対に、IT系の知見を持つ人材やデジタルネイティブ世代の若手社員を経営や人事部門にローテーションさせることで、デジタル知見を経営戦略や人事戦略立案に生かすことができ、DX人材育成にも寄与するでしょう。このように、ジョブローテーションが時代遅れになるかどうかは運用次第といえるでしょう。

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(「ジョブローテーションは時代遅れなのか」の結論)

ジョブローテーションと人事異動・キャリアパス・社内公募制度との違い

企業内での従業員の部署や職種の変更を伴う制度には、主なところでは他に「人事異動」「キャリアパス制度」「社内公募制度」があります。それぞれジョブローテーションと異なる点をみていきましょう。

人事異動との違い

人事異動は特定の従業員に対し、主に組織内での役割の変化に伴い実施されます。

昇格や降格、職種の変更なども、基本的には企業都合のみで行われる点が特徴といえます。そのため、従業員側には決定権はなく、従業員の意思や希望は基本的に考慮されません。

人事異動の目的はさまざまですが、組織の活性化や人員の補充、部署やプロジェクトの強化のための実施が一般的です。

ジョブローテーションも同様の目的が含まれつつ部署や職種、勤務地が変更されることがあります。最大の違いは、ジョブローテーションが人材育成を最大の目的としている点です。

人事異動は経営戦略上の意味合いが強く、ジョブローテーションは人材育成を重視した人事戦略に位置づけられた制度である点に違いがあります。

キャリアパス制度との違い

キャリアパス制度とは、組織内で特定の職務や職位を目指すための道筋や、踏むべきステップ(キャリアパス)を企業が示す制度です。

従業員が一定の職務・職位に到達するまでの道筋や工程を具体例で提示して、先々のキャリアの目標を明確にすることで、人材育成を促す効果があります。

キャリアパス制度は、社内での昇進・昇格の道筋や基準を明確化した人事制度であり、従業員を配置転換するジョブローテーション制度とは、目的や性質が異なります。

ジョブローテーションは、特定の職務・職位に向けて育成するわけではなく、従業員に多様な職務を積ませて、組織内の適応力を高めることを重視するものです。

キャリアパス制度は個人の成長を計画的に支援する一方で、ジョブローテーションは多様なスキルを習得させて組織の柔軟性を高める制度といえるでしょう。

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社内公募制度との違い

社内公募制度は、主にキャリア開発支援の一環として実施されるもので、企業が人材を求めるポストや職種を条件とともに公開し、社内で希望者を募る取り組みです。

社内公募制度は、従業員自らが応募する点でジョブローテーション制度と異なります。

ジョブローテーションはあくまでも企業側が対象者を選定するため、従業員は基本的にジョブローテーション制度への参加を希望できません。

仮に、ジョブローテーション制度への参加を希望したとしても、それが対象者の選定に大きな影響を与えることはほとんどありません。

なお、社内公募制度をスムーズに推進するためには、社内ポジションと従業員のスキル・能力を適切にマッチングすることが求められます。

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ジョブローテーション制度の目的・メリット

ジョブローテーション制度の導入は、企業に多くのメリットをもたらします。

導入を検討する際は、それらのメリットが自社の目的と合致しているかを見極めることが重要です。

ここでは、ジョブローテーション制度導入によるメリットを紹介します。

メリット1:企業全体を見渡せる幹部候補の育成

人事戦略の一環として行われるジョブローテーションは、幹部候補の育成が主な目的となります。

企業経営を担うことになる幹部候補は、企業全体を見渡せる能力を備えていなければいけません。ジョブローテーションを通じて、さまざまな部署や職種での経験を積むことで、企業全体を俯瞰する力が養われます。

現場の状況をまったく知らない人物に経営を任せるのは、大きな組織ほど難しいでしょう。早めに現場の感覚を掴み、各部署への理解を深めることは幹部候補に必要な経験となります。

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メリット2:人材の適性の把握や適切な配置

ジョブローテーションは、従業員の適性を見極める目的でも実施されます。

特に能力が高いと判断された従業員は、そのポテンシャルを存分に発揮できる部署や職種への配属が重要です。

ジョブローテーションを通じ、さまざまな仕事を経験することで、対象者となる従業員に適した業務の発見へとつながります。

特に、若い従業員が感じやすいミスマッチの防止にも役立つでしょう。結果的に、早期退職を防げる効果も期待できます。

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メリット3:社内のネットワークの構築

規模の大きな企業では、しばしば異なる部署間や職種同士で軋轢が生じるケースがあります。横のつながりが強固にならなければ、いずれ企業全体にも悪影響を及ぼしかねません。

ジョブローテーションでは、特定の従業員に限りますが、部署間や職種間の異動が行われます。

この従業員を中心として社内のネットワークが構築され強固なものとなれば、組織全体のまとまりにもよい影響を与えます。

新たなプロジェクトを立ち上げる際にも連携が取りやすくなり、社内のコミュニケーションの活性化にも寄与するでしょう。

メリット4:モチベーションの向上

ジョブローテーション制度の対象者として選ばれることは、従業員にとっては非常に大きな名誉です。

企業全体の人事戦略を担う重要な存在であり、幹部候補としての評価を得た証とも言えるからです。

こうした評価を受けるだけでも、モチベーションや企業へのエンゲージメントが高まる人は多くいます。また、実際にさまざまな部署や職種を経験することで、やりがいや達成感を得る従業員も少なくありません。

成長意欲が高く、新しい知識やスキルの習得に前向きな人ほどモチベーションの向上や、より早い成長が期待できます。

そうした意欲や成長が周囲にもよい影響を与えれば、組織全体のモチベーションや成長意欲の醸成にもつながります。

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メリット5:能力の開発や拡大

これまでとは異なる業務の遂行により、新たな能力が開発される可能性も高まります。

業務内容のみならず、接する人も変化するため、さらに能力の開発や拡大が促されるケースは少なくありません。

担う業務も増え、視野も拡大すれば、より優秀な人材となって企業に利益をもたらします。欠員が出た際の対応もしやすくなり、新たなプロジェクトを立ち上げる際にも任せやすくなるでしょう。

柔軟に対応でき、かつ多分野で十分な活躍が期待される、いわゆるジェネラリストの育成へとつながる点もジョブローテーションの効果の一つです。

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メリット6:イノベーションの創出

新たな経験や知識の吸収、多くの人との出会いはイノベーションの創出の源となります。

ジョブローテーション制度によりそのような体験をした従業員からは、革新的なアイデアやプロジェクトの発案が期待できるでしょう。

イノベーションの創出は、企業が成長し生き残るためには欠かせません。ジョブローテーション制度の導入は、新たな発想を生み出す従業員の創出になるともいえます。

メリット7:業務の属人化の防止と効率化

組織内で、同じ人物が同じ作業を担う状態が長期間続くと属人的となりかねません。

その人物が退職してしまえば、誰も同様の業務が行えなくなります。

ジョブローテーションにより従業員に多くの業務を担わせることで、そうした特定の担当者に依存する体制から脱却できるでしょう。

また、ある業務に従事可能な従業員を育成により複数人用意できれば、組織全体の効率化にもつながります。

誰が担っても同様のクオリティが保て、かつ多くの若い従業員に対しての同時教育も可能なためです。

時期やプロジェクトによって、必要な業務に必要な人員を容易に集中させられます。逆に、人員を分散させて、さまざまな業務の同時進行での実行も可能です。

メリット8:不正や癒着の防止

属人的な組織は、しばしば不正の温床となります。

他の従業員の関与が一切なければ、決められた担当者が自由にコントロールできる業務が作られてしまいます。

たとえば、データ改ざんや経理上の不正、部署間の癒着などにつながる恐れもあります。

外部からの監視が行き届かなければ、一部の従業員による意向や独断で部署やチーム内の状況や他部署あるいは他企業との関係性のコントロールが可能です。

ジョブローテーションにより新たな従業員が入る効果は、こうした属人的または閉鎖的な組織の風通しをよくする点にもあります。結果的に、企業に大きなダメージを与えかねない不正や癒着の防止が可能です。

ジョブローテーション制度のデメリットと対策

一方で、ジョブローテーション制度にはデメリットやリスクも存在します。

この制度の導入により生じうる主なデメリットを解説します。

デメリット1:スペシャリストの育成が困難

ジョブローテーションはジェネラリスト育成には有効ですが、スペシャリストの育成には向きません。

短くて半年、一般的には数年程度で部署や職種を変更するため、同じ業務の経験を積めないためです。幅広い知識や経験を得ながら能力や見識の幅は広げられるものの、技術の深化は難しくなります。

スペシャリストの育成ができなければ、企業としての成長が鈍化する可能性もあるでしょう。

しかし、ジョブローテーションの対象者は一部の従業員に限定することが可能です。

多くの従業員を抱える企業は、異なる形でスペシャリストの育成も可能です。役割分担ができていれば、大きなデメリットとはなりません。

デメリット2:生産性の低下が起こる可能性

部署やチームによっては、新しい人材が入ることで生産性や効率が下がるリスクがあります。

チームワークの乱れや、移った先の従業員がジョブローテーションの対象者の教育や指導にあたる必要が生じれば、これまで通りの業務が行えなくなるでしょう。

対象者自身のモチベーションが維持できない場合も、生産性の低下につながるおそれがあります。

組織側のサポートやフォローによりリスクを最小限に抑えられる可能性はあるものの、一時的な生産性や効率の低下を考慮したうえでの実施が重要です。

デメリット3:離職につながる可能性

ジョブローテーションの対象者への選出は企業からの期待の表れです。

しかし、現在の部署や業務にやりがいを感じていたり意欲を持って取り組んでいたりする人にとっては、対象者に選ばれたことが逆にモチベーション低下を招きかねません。

この制度は、基本的には企業側の人事戦略により実施されます。

選ばれた従業員の希望に沿うとは限らない以上、納得や理解が得られなければ離職リスクも念頭に置く必要があります。

優秀な人材を逃すリスクもあるため、企業側が慎重に対象者の選定や実施を進める必要があります。

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デメリット4:育成などにコストがかかる

人材の育成には投資が不可欠です。

人材育成には、どの組織でも一定のコストが必要です。

しかし、ジョブローテーション制度の導入では、前述のように生産性の低下や離職へとつながるリスクがあるため注意が必要です。

想定以上に生産性が低下したり、ある程度育成に成功した従業員が離職したりすると、かけたコストに見合った効果が得られないでしょう。

費用だけではなく時間的コストもかかる制度であるとの認識も求められます。事前にコストを計算・把握したうえで制度の運用を検討しなければいけません。

デメリット5:人間関係の構築の難しさ

ジョブローテーションによる頻繁な異動は、新しい環境での人間関係構築を繰り返さなければならない点が、従業員のデメリットとなりえます。

異動のたびにゼロから信頼関係を築く必要があり、新しいチームに馴染むまでに時間を要するケースもあります。

特に、短期間で異動がある場合、深い人間関係を築く前に次の部署へ移ることになり、仕事の進め方や業務の連携がスムーズにいかないことも想定されます。

さらに、職場環境の変化が従業員のストレスとなり、適応する負担が大きくなる可能性もあります。

組織としては、異動後のフォローアップや円滑なコミュニケーションの場を提供することが求められます。

デメリット6:キャリアパスの不明確さ

ジョブローテーションを導入すると、従業員が多様な経験を積める一方で、個々のキャリアパスが不明確になりやすいこともデメリットです。

特に、異動の方向性が明確でない場合、従業員が自身の将来像を描きにくく、キャリアの不安を抱えやすくなります。

一つの職務で専門性を深めたい方にとっては、さまざまな部署を異動することでスキルの蓄積が中途半端になり、自身の適性や強みが見えにくくなる可能性もあります。

そのため、企業側はジョブローテーションの目的や個人のキャリア設計と連携させる仕組みを整え、適切な説明を行うことが重要です。

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ジョブローテーションの導入事例

ジョブローテーション制度を活用している企業の導入事例を紹介します。

ヤマト運輸株式会社

ヤマトグループでは、人材育成の一環としてジョブローテーションを積極的に導入しています。

特に20代の若手従業員を対象に、グループ間の異動を行うことで、各事業への理解を深め、広い視野を養う機会を提供しています。

一つの会社にとどまらず、グループ会社間でローテーションを行うことでグループ全体の強みを俯瞰し、イノベーションのヒントを得ることができます。

さらに、海外現地法人へのトレーニー派遣を実施し、現地の業務とローカルの従業員が交流する機会を設けて、グローバル人材の育成にも力を注いでいます。

グループ会社間や国境を超えて人材を育成する先進的な取り組みとして、注目されています。

東京海上日動火災保険株式会社

東京海上では、従業員の成長を促すためにジョブローテーションを積極的に導入しています。

例えば、新入社員はコマーシャル営業部門に配属され、企業のリスクマネジメントを学びながら、クライアントの経営課題に対するコンサルティングを経験します。

その後、パーソナル営業部門へ異動し、代理店経営支援やマーケット開拓に携わるといったジョブローテーション事例を公開しています。

異なる業務経験を通じて、多角的な視点やリーダーシップを養うことができます。

さらに、海外勤務を含むジョブローテーション制度により、多様な経験を積む機会を提供し、将来のキャリア形成を支援しています。

ソニー株式会社

ソニー株式会社では「自分のキャリアは自分で築く」という考え方を重視し、ジョブローテーションと従業員の意思にもとづく社内募集制度を組み合わせた、柔軟なキャリア形成の機会を提供しています。

例えば、セキュリティ分野では、日本や海外拠点をローテーションしながら、グローバルな視点でキャリアを積める育成プログラムを導入しています。

また、マーケティング職では3年ごとにBtoC/BtoB領域を横断し、専門性を高めるローテーションが行われています。

ソニーグループ全体のネットワークを活用しながら、国内外をローテーションし、グローバルに活躍できる人材の育成を目指す点が特徴です。

ジョブローテーション制度を導入しやすい企業例

ジョブローテーション制度は、企業の特性によって導入のしやすさが異なります。

まずは、このジョブローテーション制度の導入に向いている企業の例を紹介します。

部署間の連携や関係性が強い企業

すでに部署同士の連携が日頃から行われる体制が整えられており、実際に強い関係性により成り立っている企業は、ジョブローテーション制度の導入に適しており、他の部署からの異動者もスムーズに受け入れられやすい環境といえます。

具体例として、自社商品の開発や提供に関する業務を部署間で連携しながら進めている企業などが該当します。

プロジェクトごとに連携する部署を入れ替え、会議やプレゼンテーションを合同で行う習慣のある企業も当てはまります。ポジティブな形での人事異動が盛んな企業も同様です。

幅広い知識や多角的な視点が求められる企業

業務を担う際に、幅広い知識が求められる企業も、ジョブローテーションの導入価値が高まります。

規模の大きな企業の場合、業務によっては狭く深い知識や技術を必要とするものもあるでしょう。

しかし、他の業務についての理解や多角的な視点がなければ商品開発やプロジェクトの進行に支障をきたすケースの多い企業において、ジョブローテーションによって、業務推進の質を高める可能性があります。

ジョブローテーションを経た従業員の経験は意味を持ち、長期的にみれば大きな効果を発揮します。

企業の理念やポリシーに重点を置く企業

同じ企業でも、部署が異なれば理念やポリシーの理解も異なることがあります。

企業内で従業員の流動性を高められれば、異なる部署や職種であっても企業の理念やポリシーを浸透させやすくなります。

偏った意見や価値観を持つ従業員のみの集団であり続けることを回避できるためです。

特に、M&Aにより異なる企業が吸収・合併されたケースや、支社や店舗が全国各地にある企業などが該当します。

業務内容のマニュアル化が可能な企業

もし、業務のマニュアル化が可能であり、それを元とすれば比較的容易に業務が遂行できるのであれば、ジョブローテーション制度の積極的な活用を検討する価値があるでしょう。

新たに配属された従業員でも、マニュアルの存在によりスムーズな引き継ぎや早期の戦力化が期待できるためです。

マニュアル化が難しくても、短期間である程度の業務が担えるような職種の多い企業もジョブローテーション制度導入による効果が期待できます。

人材育成を重視する企業文化を持つ企業

長期的な人材育成計画を立て、戦略的に従業員のキャリア開発に投資する企業も、ジョブローテーションの導入に向いています。

ジョブローテーションは一般的に、1つの部署に3年~5年在籍してから複数回の異動を行います。

複数の職務経験を積むために、10年以上の時間を要することから、長期に人材育成を行う企業と相性がよいといえるでしょう。

ジョブローテーション制度の導入に不向きな企業例

続いて、ジョブローテーション制度の導入が不向きな企業の特徴を解説します。

部署ごとに業務内容も異なるケースが多いため、制度の導入可否は、企業の特性や組織状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。

各部署の専門性が高い企業

マニュアル化が難しく、かつ専門性の高い業務が大半を占める企業では、ジョブローテーション制度はあまり向かないでしょう。

短期間で知識や技術を習得するのは難しく、教育にもコストがかかるためです。

若い従業員に対し長期にわたる育成を試みるのは可能ですが、専門性が高度であるほど対象従業員のモチベーションの低下リスクも高まるため注意しなければいけません。

広く浅く経験させるより、専門性を高めた育成のほうが効果的です。

部署や職種により待遇に大きな差がある企業

部署や職種ごとに給与などに大きな差があると、異動のたびに待遇を変化させざるをえません。

待遇を変えず、仮に、配属先の従業員たちの待遇に満たないままであれば、対象従業員から不満が出る可能性があります。

逆に、対象従業員が配属先の従業員たちよりも待遇がよければ、当該部署で以前から働いていた従業員たちから不公平感が生じ、組織の士気を下げる要因になりかねません。

企業にとって重要なポジションの育成目的であったとしても、導入するのであれば待遇面にも配慮が必要です。

プロジェクトの大半が長期にわたる企業

数年単位でプロジェクトを遂行するケースの多い企業も、ジョブローテーション制度はマッチしないでしょう。

プロジェクトの進行中に、同じ企業内の従業員とはいえ参加したり出て行ったりすればプロジェクト進行に支障をきたす可能性があります。

ジョブローテーション制度を取り入れるのであれば、新たなプロジェクトが始まるタイミングで配属させるなどの工夫が求められます。

顧客との長期的な関係構築が重要な業種

ジョブローテーションは、顧客と長期的に関係構築を行う仕事には不向きといえます。

例えば、高単価の商材や金融商品、不動産商品は年単位で顧客と関係を築くケースが多いです。せっかく積み上げた関係性を、ジョブローテーションによって構築した信頼関係が断たれるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

また、無形商材を扱う営業職やコンサルタントは、製品・サービス力よりも「人」で選ばれる仕事です。

そのため、頻繁にジョブローテーションを行うとデメリットとなる可能性が高いでしょう。

人員に余裕がない企業

従業員数が数名から数十名程度の規模では、人員の余裕がなくジョブローテーション制度の運用が難しいケースもあります。

また、小規模企業では職務の種類が限られてしまい、ローテーションを行う必要性を感じない場合もあるでしょう。

小規模企業はそもそも少人数の体制で複数の職務を担う体制が定着している場合、制度導入の必要性が低いといえます。そのため、ジョブローテーションが不向きと考えられます。

ジョブローテーション制度導入の流れ

ジョブローテーション制度を導入する際の基本的なステップと、各プロセスでの注意点を解説します。

1.対象者を選定する

最初に行うのが、制度対象者の選定です。

ジョブローテーションには、一定のコストがかかりデメリットやリスクも生じかねないため、慎重な選定が求められます。

年齢や勤続年数などの定量的な要素に加え、能力や意欲、価値観といった内面の把握も重要です。

2.配属先を検討・決定する

配属する部署や担当する業務を検討し、決定します。

一定の期間をかけて複数の部署や業務を経験してもらうのが一般的ですが、配属先や配属の順番などは対象者に合わせると効果が得られやすくなります。

単なる欠員補充ではなく、あくまでも育成を目的とした人事戦略のもとでの決定が重要です。

3.実施期間と目標を設定する

実施期間の設定も重要です。

人事戦略に関する計画を作成したうえで、どの部署にどれくらいの期間配属させるのかを決定します。

業務内容によっては短期間の配属が適しているケースもあれば、逆に長期間携わってもらった方がメリットが大きい場合もあるでしょう。

同時に、各部署での目標を立てます。目標に沿って実施期間を調整する、あるいは逆に実施期間によって目標を決めるなど、適切な期間と目標の設定が求められます。

4.対象者へ通知する

対象者を選定し、配属先や実施期間、目標を設定したら、その対象者に正式に伝えます。

伝え方により、対象者の受け取り方は変化します。

決定事項を事務的に伝えるのではなく、期待することや対象者自身にとってのメリットなどの説明も不可欠です。

ジョブローテーション制度の対象者となる可能性の高い従業員に対しては、選定前からコミュニケーションを図っておく必要もあります。

本人にどれくらいの意欲があり、どのような価値観を持っているのかを把握するためです。事前に準備しておくことで、本人の納得感も得やすくなります。

5.ジョブローテーションを実施する

計画に沿って、実際にジョブローテーションを実施します。

長期的な目標を達成するための短期的な目標も立て、進捗や達成度合いを逐一確認する作業も必須です。

必要に応じて面談を実施し、モチベーションや心理的な変化にも注意を払います。配属先への配慮も欠かせません。

同じ企業内でも人事部のみの判断を押し付ける形での実施では、よい効果は得られないでしょう。

6.新たな配属先の決定と実施を繰り返す

当初決められた期間を終えたり目標を達成したりしたら、次の配属先を決定し異動させます。

基本的には同じプロセスを踏みつつ、対象従業員の成長やモチベーションを考慮しながら、配属先や配属期間の変更など柔軟に対応しましょう。

ジョブローテーションを効果的に行うポイント

単にジョブローテーションを実施するだけでは、十分な効果は得られません。

戦略的な実施が重要ですが、それにくわえて意識したいポイントもあります。

ここでは、ジョブローテーションで効果を得るためのポイントを解説します。

1.サポートを徹底する

欠かせないのが、ジョブローテーションの対象者へのサポートです。

一定の期間をかけて育成する目的で行われるため、若手従業員が対象となるケースも多いため、企業によるサポート体制の整備が不可欠です。

例えば、配属先について、業務内容や従業員の特徴などをあらかじめ情報として提供しておくのも一つです。

配属先へ事前に入念な説明を行い、理解してもらうなどの働きかけも欠かせません。教育の担当者を決定し、いつでも相談にのれるような体制の構築も必要でしょう。

当初は意欲が高くジョブローテーションの対象者となったことを喜んでいたとしても、環境や業務に馴染めなければ不安や不満を感じるリスクもあるため、精神的なフォローも重要です。

精神面でのサポートも徹底しながらの推進が不可欠です。

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2.目的を明確にする

ジョブローテーション制度の目的を明確に定めることも大切です。

目的が曖昧なまま実施すれば、形骸化してしまう恐れがあるためです。企業全体としての目的はもちろん、各部署や職種にとっての目的も明確にしておけば、社内からの疑問・質問に対応しやすくなります。

明確な目的を伝えられなければ、各部署や従業員の協力も得られません。

目的は、企業と従業員双方にとっての利点が明確になるように設計すべきです。結果的に、企業や当事者の利益になると理解されることが重要です。

3.対象従業員の納得と理解に努める

対象者となる従業員が、この制度を受け入れなければ、そもそもジョブローテーションは成立しません。

従業員の選定などは企業側が行うものの、押し付ける形では効果が得られないでしょう。

企業には、対象者の納得と理解に十分に努める責任があります。そのためには、サポートの徹底と明確な目的があることの伝達が肝要です。

対象者の理解とは、この制度に対するものも含まれます。単に「名誉だから」「よい機会だから」といった理由では、制度の本質的な理解には至りません。

この制度の効果を最大化し企業が享受するには、対象従業員のジョブローテーション制度への理解を深めるとともに意義の把握が不可欠です。

4.評価制度の整備

ジョブローテーションは、定期的にまったく異なる部署に異動を行う制度のため、一貫した評価基準を設けることが重要です。

例えば、エンジニア職が営業職に異動してから、いきなり営業成績だけで評価されてしまうと、不公平に感じる方もいるでしょう。

異なる職種で共通する指標、例えばリーダーシップやコミュニケーション力などを基準にするなど、評価項目の見直しや共通指標の設定が効果的です。

他にも、上司ごとに評価がばらつきが出ないよう、360度評価を取り入れて公平性を保つ方法も有効です。

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ジョブローテーションは従業員・企業双方にとって有益な制度

特定の従業員を選定し、企業内の複数の部署や職種へ異動させる人事手法である「ジョブローテーション」。多くは、幹部候補やジェネラリストの育成を目的として実施されます。

部署間のネットワーク構築にも寄与するでしょう。一方で、コストがかかる点やスペシャリストの育成には向かない点はデメリットです。

適切に設計・運用されれば、従業員と企業双方にとって価値ある制度となります。

タレントマネジメントで適切なジョブローテーション管理を行おう

ジョブローテーションは、従業員の長期育成や人材開発を目的とした人事異動の一手法です。

3年〜5年スパンで性質の異なる職務につき、多角的な視野を養うことでスキルアップや組織力向上につながります。

ジョブローテーションを従業員の成長につなげるためには、さまざまな部署で経験した業務や身につけたスキル・能力などを管理することが重要です。

HRMOSタレントマネジメントは、従業員一人一人の業務経験、スキル、目標などを一元管理できるため、ローテーション先の検討・決定もより適切かつスムーズに行えます。

HRMOSタレントマネジメントの機能詳細は次のページでご確認ください。

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