サクセッションプランとは?後継者育成の事例やプランの作り方を解説

コーポレートガバナンスの強化や、継承者不在への対応などを目的に、サクセッションプランの策定に取り組む企業が増えています。本記事では、サクセッションプランの概要や注目される背景、メリット・デメリット、プラン作成の手順、企業事例などについて解説します。

サクセッションプランとは?

はじめに、サクセッションプランの定義や目的などの基礎知識を確認していきましょう。あわせて、人材育成や後任登用など、混同しやすい用語との違いについても解説します。

サクセッションプランの定義

サクセッションプランとは、事業を継承する後継者や幹部を育成するための計画のことです。

サクセッションプランは、1950年代ごろからアメリカの企業で取り入れられ始めました。英語では「succession plan」と書き、直訳すると「継承計画」や「相続計画」となりますが、代表取締役やCEO(最高経営責任者)の継承者育成に限らず、幹部候補生の育成も含んだ広い概念です。

<h3>サクセッションプランの目的</h3>

サクセッションプランの目的は、後継者や幹部の候補を計画的に育成して、企業の持続的成長につなげることです。経営に関わる人材は、幅広く高度な知識や技能、経験を必要とするため、代わりがすぐに見つかりません。そのため、仮に経営者が体調を崩して急に退任するような事態が起きれば事業に大きな影響が出るケースもあるでしょう。こうした存続リスクを避けて企業を発展させていくために、サクセッションプランを策定します。

<h3>サクセッションプランと人材育成の違い</h3>

サクセッションプランと人材育成は、目的と育成対象者、指導者が異なります。サクセッションプランは、経営者候補・幹部候補の育成を目的に行われるため、育成対象者を少数に絞り込みます。この際、経営層がサクセッションプランの策定に関与し、育成施策を担当するケースが多いことが特徴です。

一方、人材育成は全社員のパフォーマンス向上を目的に行われます。そのため、配属部署や業種、役職などに応じてさまざまな研修やOJTが実施されるのが特徴です。人材育成の計画は、人事担当者が担うケースが多く、施策の実行は人事担当者や直属の上司、外部研修期間の講師などが行います。このように、サクセッションプランと人事育成のプランは違うため、明確に区別することが必要です。
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<h3>サクセッションプランと後任登用の違い</h3>

サクセッションプランと後任登用も異なる概念です。後任登用とは、直属の部下やポストに近い年次の社員から、ポストの後任者を選ぶことです。後任登用は、ポストに空きが生じた際に、現状の人員の中からふさわしい人材を選ぶため、サクセッションプランのような人材育成を行いません。

また、サクセッションプランは既存ポストに近い人が選ばれないケースも多い傾向です。サクセッションプランでは、経営理念や経営戦略に合った人材が選ばれるため、後任登用よりも選任の自由度が高い特徴があります。

<h3>サクセッションプランとタレントマネジメントの違い</h3>

サクセッションプランとタレントマネジメントの違いも確認しておきましょう。タレントマネジメントとは、従業員一人一人の持つスキル、能力、経験、個性などの情報を一元管理して、採用活動や人材育成、人材配置などに活用する人材マネジメント手法を指す言葉です。従業員とポジションをタレントマネジメントの専用システムで見える化することで、タレントマネジメントを加速させやすくなるため、多くの企業がタレントマネジメントシステムの導入を進めています。

経営戦略上のポストとなる後継者候補を早い段階から探し、育て、管理していくサクセッションプランを円滑に進めるためには、タレントマネジメントが欠かせません。タレントマネジメントに取り組むことで、客観的なデータに基づいて人材を見極め、後継者候補を探すことが可能になるためです。

タレントマネジメントの詳しい説明は、こちらの記事でもご確認いただけます。

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<h2>サクセッションプランを策定する企業が増えた背景</h2>

従来は、代表取締役の一存で実質的に後継者や幹部が決まるようなケースも珍しくありませんでした。しかし、現在はサクセッションプランを策定し、実行している企業が増えています。サクセッションプランを策定する企業が増えてきた理由について解説します。

<h3>人材版伊藤レポート2.0におけるサクセッションプラン</h3>

経済産業省が主導した「人的資本経営の実現に向けた検討会」に関連づけて、人的資本経営の概要や取り組み方の詳細をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」の中で、サクセッションプランが紹介されたことも、注目された要因といえます。

具体的には、人的資本経営を進める過程において、経営戦略と人事戦略を連動させるための取り組みの1つとして、サクセッションプランが重要であると述べられています。特に、グローバルに事業展開をする企業であれば、海外の競合企業に見劣りしないようなグローバル水準のリーダーを育てるため、20代・30代から経営人材を抜擢していくことが必要と解説されています。

出典:人的資本経営の実現に向けた検討会  報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~  

<h3>人的資本の情報開示の義務化</h3>

上場企業を中心に人的資本の情報開示が義務化されたことも、サクセッションプランの策定を後押ししています。内閣官房は、人的資本経営の情報開示に関する方針などが定められた「人的資本可視化指針」を公開し、流動性に関連する開示事項例などで、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、言及しています。現在、後継者有効率は必須項目でないものの、人的資本経営の情報開示項目の一つとして注目されていることが分かります。

出典:非財務情報可視化研究会 人的資本可視化指針

<h3>日本の中小企業では後継者不在による廃業が相次いでいる</h3>

中小企業が商品・サービスで黒字を出しているにもかかわらず、後継者不足によって廃業するケースが日本では増えています。中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、2025年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業、小規模事業者の経営者は約245万人に上ります。このうち、約半数の127万の企業が後継者が未定という状態です。仮に、何の対策も打たずに放置すると2025年までに約650万人が職を失い、約22兆円のGDPが失われる計算になります。こうした危機的な状況を自社も抱えており、サクセッションプランに取り組み始める中小企業・小規模事業者が増えています。

出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」、https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf

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<h2>サクセッションプランに取り組むメリットと重要性</h2>

サクセッションプランに積極的に取り組むことは、企業の将来にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのメリットについて解説します。

<h3>経営リスクを軽減</h3>

サクセッションプランを適切に策定して実行できていると、経営者や幹部のポストが機能停止に陥ってしまう期間を短くできます。

例えば、事業の不祥事によって経営陣の退任があったときでも、次の候補者がすぐにポストに就いて事業を続行することが可能です。育成の進み具合にもよりますが、前任者と同等かそれ以上の能力、資質を持った人にすみやかに交代できるでしょう。

ビジネススピードが加速している現代では、内部要因ではなく外部要因によって経営陣の交代が必要になる場合も少なくありません。

例えば、新型コロナウイルスのような感染症の影響で事業のオンライン化を余儀なくされたり、自然災害によって事業変革が必要になったりするなど、外部要因に対応するためには後継者育成が不可欠です。有事の際に、先進的な技術やビジネスモデルを学んでいる人材がいれば、次世代の事業にふさわしい人にスムーズに事業を引き継ぐことができるでしょう。

<h3>優秀な人材が定着する</h3>

サクセッションプランを用意すると、優秀な人材が定着しやすくなります。なぜなら、将来の経営者、幹部候補だと企業から明言される形となり、モチベーションが高まりやすくなるからです。貴重な人材として認めることで、従業員満足度や帰属意識が高まる効果も期待できます。また、社員がキャリアアップのプランも描きやすくなるため、競合他社に転職するリスクも減るでしょう。現代の日本企業では、終身雇用制度が崩壊しつつあるため、優秀な人材は企業を渡り歩くのが当たり前になりました。

優秀な人材をつなぎとめる対策としても、サクセッションプランは効果的です。優秀な人材に重要ポストを引き継いでもらえれば、十分な評価期間があるため、ミスマッチはほぼ起こりません。逆に、外部から優秀な人材を登用するとなると採用活動の手間とコストがかかるうえに、ミスマッチのリスクが高まります。

<h3>経営理念・経営戦略を社内に浸透できる</h3>

サクセッションプランの公表と実施によって、経営理念・経営戦略を社内に浸透させる効果も期待できます。サクセッションプランでは、求める人物像に関連して企業のビジョンや事業計画を伝えるのが一般的です。そのため、サクセッションプランの対象者はもちろん、その他の社員も「どのようなスキルが求められているのか」「どのような役割を期待されているのか」などを考えるきっかけになります。将来のリーダー像をイメージすることで、「企業がどうあるべきか」「新たな企業価値は何か」など、経営視点で考える社員もいるでしょう。

また、人事担当者はサクセッションプランを参考に人材育成の方針を検討できます。実際、サクセッションプランの導入に伴って、人事評価制度が洗練されるケースは少なくありません。例えば、幹部候補生を指名するためにタレントマネジメントシステムを利用して業務実績の管理をしたり、360度評価のように客観性が高い指標を取り入れたりするなどで、人材マネジメントがレベルアップする事例も見られます。

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<h2>サクセッションプランのデメリットと対策</h2>

サクセッションプランは、メリットばかりではなくデメリットもあります。ここでは、多くの企業が直面しやすい3つのデメリットを見ていきましょう。

<h3>長期的に育成コストがかかる</h3>

サクセッションプランの実行は、数年〜数十年の長期間になるのが一般的です。

経営者候補や幹部候補を育成するには、全社横断的にさまざまな知識や経験を積ませなければならないため、どうしても時間がかかってしまいます。例えば、サプライチェーン全体を理解させるために部署や事業所を異動させたり、外部機関の研修を定期的に受けさせたりする場合もあるでしょう。

また、育成をする側のコストという点でも一般的な人材育成と比べて高額になります。なぜなら、育成を担当するのは経営層や経験豊富な人事担当者などが多く、工数をコスト換算した際の額が大きくなるからです。

そのうえ、長期間の育成である分、途中の退職や辞退のリスクも高い面があります。コストが無駄にならないように、対象者の選定は慎重に行ったほうがよいでしょう。

<h3>長期的な計画が必要</h3>

繰り返しになりますが、サクセッションプランは長期的な施策です。

そのため、後継者計画の立案は手間のかかる作業になります。のちほど解説しますが、サクセッションプランの具体的な策定の前に、企業ビジョンや経営戦略の見直しから始めなければならない場合も多いです。

さらに、サクセッションプランは新入社員の教育研修のように一律的に実施するわけにもいきません。個人の成長度合いや持っているスキル、素質に合わせて綿密なプランを立てる必要があります。マンツーマン指導のように、手厚い施策を考えなければならないケースも多いでしょう。

サクセッションプランの対象者は少人数ですが、内容が濃いため、十分な時間を確保しておくことが必要です。また、人事担当者だけでは決められない事柄も多いため、経営層のスケジュールも確保しておきましょう。

<h3>経営者・幹部候補生とそれ以外の社員に格差が生じる可能性</h3>

サクセッションプランの導入によって、経営者・幹部候補生とそれ以外の社員に格差が生じてしまうケースもあります。

特に、20〜30代の若いうちからサクセッションプランを適用する場合、経営者・幹部候補生に選ばれなかった人がモチベーションを失いかねません。

つまり、官僚組織と同じようにキャリア組とノンキャリア組のような壁ができてしまい、組織としての風通しが悪くなってしまう可能性もあるのです。

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<h2>サクセッションプランの作り方と手順</h2>

サクセッションプランの実施では、「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」といったPDCAサイクルを活用するのが効果的です。

長期的な施策のサクセッションプランは、現時点で最適なプランを計画できたとしても、状況が変わって順調に進まないケースも珍しくありません。柔軟性を失わないように施策を進めていくとよいでしょう。ここからは、サクセッションプランを作成する8つの方法を解説します。

<h3>1.経営戦略の作成</h3>

まず、明確にしておかなければならないのは、経営戦略です。経営戦略を明確にしなければ、サクセッションプランの対象となるポジションや人物像は決まりません。

自社を取り巻くビジネス環境や、今後の予測、将来の事業計画など外部要因、内部要因を広く分析したうえで、可能な限り経営戦略を明文化しておきましょう。この際、「改革を望むのか」「リスクを抑えて現状維持を目指すのか」など、経営者のスタンスや優先事項をはっきりさせておくことも重要です。

この段階では、人事担当者だけで進めるのが難しいため、経営層の参加が欠かせません。
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<h3>2.ポジションの洗い出し</h3>

次に、サクセッションプランが必要なポジションの種類と必要人数を洗い出します。事業継承のみ必要であれば、代表取締役のみが対象になるでしょう。

また、経営改革が課題であれば、CEO(最高経営責任者)や役員、統括部長など経営に関わる重要ポストがサクセッションプランの対象候補です。場合によっては、ポジションの新設が必要になります。

いずれにしても、経営に大きく関わるため、経営層の意向を聞き取りながら具体策に落とし込んでいきましょう。

<h3>3.人材要件定義</h3>

続いて、ポジションごとに企業が望む人物像を能力と資質に分けて定義していきます。能力の項目では、専門的な知識や語学力、取得資格、過去の経験・実績などが挙げられます。

また、資質の項目で検討するのはリーダーシップやコミュニケーション能力、創造性などです。具体的に設定するほど、適任者をリストアップしやすくなります。また、サクセッションプランによる育成が開始されたあとのミスマッチを防げるでしょう。


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<h3>4.人材選出</h3>

人材要件定義を満たす適任者を選出していきます。選出方法としては、自薦、他薦、タレントマネジメントシステムからの抽出、試験による選抜など、さまざまな方法があります。自社に合った方法を選びましょう。このプロセスで難しいのは、一般的な人材配置と違ってキャリアや実績だけでなく、ポテンシャルの高さが重要になる点です。

幹部の中から経営者候補を選ぶような際でも、実際に経営者になってみないと資質は見極めにくいものです。まして、10年単位で長期的に育成する場合には適任者の見極めは難しくなるでしょう。そのため、最終的には経営層や人事担当者がよく話し合って選出していく必要があります。

一方で、公平性や透明性も保たなければなりません。選出基準を可能な範囲で公開したり、能力や資質をなるべく定量的に評価して主観が入り込まないようにしたりするなど工夫が必要です。公平性や透明性を保つために、外部の中立的な人物を選考メンバーに加える方法もありますが、客観的なデータに基づいて判断ができるタレントマネジメントの活用がおすすめです。

<h3>5.育成計画の作成</h3>

経営者候補、幹部候補が選出されたらポジションごと、候補者ごとに綿密な育成計画を立てていきます。企業によっても異なりますが、配置転換やジョブローテーション、海外への派遣などの施策を、数カ月から1年くらいの単位で決めていくのが基本です。

そして、ミッションごとに達成目標を掲げて、あとで評価できるようにします。サクセッションプランは、チャレンジングな内容になるのが一般的です。そのため、「OKR(Objectives and Key Results)」という目標達成のためのフレームワークを採用する企業もあります。

OKRの特徴は、以下の通りです。

・意欲的な目標を設定する

・1~3カ月で評価できる目標にする

・数値にこだわらず定性的な内容を設定する など

OKRは、高みを目指す育成に向いています。育成計画の作成では、指導担当者のスケジュールもしっかりと決めておきましょう。

仮に、経営者候補の育成計画であれば経営者自らが指導することになります。経営者の多忙によって、サクセッションプランが滞ることがないように、計画を立てておくことが必要です。

人事担当者が育成計画の作成を任された場合でも、必要に応じて指導担当者に問題ないか確認しておくとよいでしょう。
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<h3>6.実行</h3>

育成計画を実行します。数カ月〜1年くらいの単位で施策をスケジューリングし、計画に沿って進めていきましょう。

サクセッションプランは、長期的なプロジェクトとなるため、スケジュール管理がルーズになりやすい傾向があります。そのため、「いつまでに何を達成しなければならないか」についてスケジュール管理の担当者がしっかりと管理することが必要です。

また、経営者候補、幹部候補が課題に集中できる環境を整えていきましょう。

<h3>7.評価・進捗チェック</h3>

サクセッションプランで学んでもらう内容は、形のないスキルや能力である場合が多くあります。それだけに進捗状況や、成果を把握していく姿勢が重要です。

このプロセスは、複数の候補者の中から後継者を選ぶときの重要な資料になります。公平性や客観性がない場合は、候補者や関係者の間から不満が出かねません。

実際、定期的に評価を共有したり、選定委員会に中立的な第三者の評価を加えたりして、公平性を保っている企業もあります。

なお、評価・進捗チェックのプロセスでは、人事担当者が候補者のメンタル面のサポートを行うケースもあります。なぜなら、サクセッションプランは昇進テストという側面があり、候補者と指導者のパワーバランスが崩れやすいからです。

また、プレッシャーやストレスも感じやすい傾向があります。そのため、人事担当者が中立的な立場となって「何か問題がないか」「負荷が大きすぎないか」などをヒアリングできる体制が理想的です。

<h3>8.計画の修正・追加</h3>

計画に問題が生じていれば修正を検討し、必要に応じて施策を追加します。綿密なサクセッションプランを立てていても、計画が狂うことは仕方がありません。

外部環境の変化によって求める人物像が変わってしまうケースもあるため、柔軟に軌道修正することが必要です。無理に計画を進めるよりも、現状に合わせたサクセッションプランに修正したほうが、成長につながりやすくなります。

<h2>サクセッションプランを成功させるためのポイント</h2>

サクセッションプランを成功させるためには、経営層が中心となり能動的に進めることや、透明性・公平性の高い選抜プロセスの構築が必要です。サクセッションプランを成功させるためのポイントを3つご紹介します。

<h3>経営層の積極的な関与</h3>

サクセッションプランの選抜方法は、CEO単独から指名委員会での選出へと変化しつつあります。東京証券取引所によると、指名委員会の設置状況は2018年の34.3%から2024年には90.6%まで上昇しており、後継者候補の選出方法が変化していることが分かります。

すなわち、CEOが独断と偏見で後継者を決めるのではなく、経営層全員の幅広い視点から経営戦略を検討したうえで対象人材を選抜することが不可欠となってきています。

出典:株式会社東京証券取引所 東証上場会社における 独立社外取締役の選任状況 及び指名委員会・報酬委員会 の設置状況

<h3>透明性の高い選抜プロセス</h3>

サクセッションプランにおける後継者候補の選抜は、透明性と公平性を担保したプロセスが必要です。社内人材をCEO候補とすること自体は問題ありませんが、「企業の経営課題解決のために」必要な人材を選抜することを忘れてはいけません。

社内から後継者候補を選ぼうとすると、どうしても人間関係やしがらみが発生する可能性があるため、透明性や公平性を保つためにタレントマネジメントを活用して、データによる根拠を示す方法もよいでしょう。他にも、あえて外部知見を取り入れるべく、しがらみの少ない社外人材を選抜する方法もあります。

いずれにしても、目指す目的が企業成長という方向性からぶれないよう、選抜プロセスの仕組みに注意すべきでしょう。

<h3>柔軟な育成プログラムの設計</h3>

サクセッションプランを成功させるためには、あるべきCEO像の基準に照らし合わせながら、適切な育成プログラムを設計することが重要です。事業の後継者になるためには、ときには修羅場や予期せぬ事態を乗り越える経験を積ませる必要があるでしょう。

机上の空論にならないよう、実践形式を織り交ぜながら、充実した育成プログラムを設計しましょう。

なお、サクセッションプランの育成プログラムを作る際は、外部の人事コンサルタントや研修会社など専門家の協力を仰ぐことも効率的です。

<h2>サクセッションプランの企業事例</h2>

ここでは、サクセッションプランの成功事例を6社紹介します。

<h3>トヨタ自動車株式会社</h3>

トヨタ自動車は、自動車産業やトヨタ独自の知識・技術を取得するのに長時間の修練が必要と考えてきました。そのため、もともと中長期的な人材育成プランを実施しています。

優秀で意欲的な人材を対象にした、将来のリーダー候補を対象にしたサクセッションプランにおいても長期的な取り組みであるのが特徴です。例えば、サクセッションプランにおいては育成計画の全体をストーリー化して伝えています。また、キャリアパスを提示し、自己申告によって本人の意志、意欲を確認したあと、育成に入るのが特徴です。

2020年には、副社長を廃止して社長自ら50代前半の幹部を中心に最高幹部を育成していくサクセッションプランが耳目を集めました。

副社長を廃止した理由は、社長がダイレクトに対話する機会を増やすことによって、トヨタの価値観と企業風土改革を伝えるためです。

参考:トヨタ自動車「詳細解説(トヨタの人材育成)」

<h3>株式会社荏原製作所</h3>

ポンプ事業や冷熱事業などを展開する製造業の荏原製作所は、海外事業戦略に力を入れています。

そこで、重要になるのがグローバルキーポジションのサクセッションプランです。同社は、人材選出の対象を広げ海外拠点人材も含めてサクセッションプランの対象としています。

各国で優秀な人材を発見した際は、早期にグローバルキーポジション候補者として抜擢し、育成プログラムに加える仕組みです。現在は、対象ポジションをプレジデント、事業部長、統括部長、部長、課長まで拡大し、すべての候補者を社長自らレビューしています。

この体系的な人材戦略によって、「競争し、挑戦する」企業風土を構築できているということです。

参考:経済産業省「的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~」、https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

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<h3>株式会社りそなホールディングス</h3>

りそなホールディングスでは、持続的な企業価値向上を図るために2007年からサクセッションプランを導入しました。

本社および子会社の役員の継承にサクセッションプランを適用しています。りそなホールディングスのサクセッションプランは、公平性や透明性が高いレベルで確保されている点が特徴です。

研修内容は、外部機関からアドバイスを受けて決定されるうえ、評価内容はすべて公開しています。また、候補者を適切に評価するために直接対話する機会を設けているのが特徴です。

最終的に、役員を選任する際は社外取締役が過半数を占める取締役会において多様な観点から議論したうえで決められます。

参考:りそなホールディングス「コーポレートガバナンスの概要」、https://www.resona-gr.co.jp/holdings/about/governance/governance/about.html

<h3>コニカミノルタ株式会社</h3>

コニカミノルタは、持続的成長を実現する次世代リーダー育成のためにサクセッションプランを立案しています。

直接的なターニングポイントとなったのは、先述した2015年のコーポレートガバナンス・コードでした。コニカミノルタの人物要件定義は、具体的です。

例えば、「先を読む力」「企業成長への熱意」など、どの企業でも通用する内容に加え「事業に土地勘のあることが必須」などの固有要件も追加しています。育成施策も具体的で、執行役として判断を下してもらい、現執行役から気付いた点や改善点のアドバイスを受けるという実戦形式が特徴です。

はじめの参加者は数人でしたが、育成効果が高かったことから現在では10名規模になっています。

参考:コニカミノルタ株式会社「サステナビリティを
支える基盤」、https://www.konicaminolta.com/jp-ja/investors/ir_library/ar/ar2018/pdf/konica_minolta_ar2018_j_06.pdf

<h3>株式会社小松製作所(コマツ)</h3>

建設や鉱山、林業などの産業機械を製造するコマツは、サステナビリティ基本方針と中期経営計画のKPI(Key Performance Indicator)において、サクセッションプランの取り組みを公表しています。サステナビリティ基本方針として、グローバル人材の活躍を掲げ、本社のみならず海外グループの各社経営幹部層へサクセッションプランを拡大しています。国内外における約700の主要なポジションをグローバルキーポジション(GKP)として位置づけ、サクセッションプランを策定することによって次世代リーダーの計画的な育成をグローバルに推進しています。

参考:株式会社コマツ 活動実績

<h3>セイコーエプソン株式会社</h3>

セイコーエプソンでは、社外取締役を委員長として、年17回にわたり取締役選考審議会を実施しています。取締役選考審議会の中では、サクセッションプランの内容や社長以外の役員の選考方針について議論を行い、各課題への取り組みの方向性や残課題を明確化しています。経営陣のサクセッションプラン・トレーニングを取締役会の機能として名言している点が特徴です。

参考:エプソン統合レポート2023

<h2>サクセッションプラン策定で経営に関わる人材を育成していこう</h2>

企業に求められるコーポレートガバナンスの強化や後継者不在などによって、サクセッションプランを策定する企業が増えています。

サクセッションプランは、経営リスクの軽減や優秀な人材定着などの効果を得られるのがメリットです。一方で、長期にわたる育成施策によってコストがかかる点や育成計画を担当する人事担当者の負担が大きいなどのデメリットもあります。自社に合った方法を選んで、成果を高めていきましょう。

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<h2>透明性・公平性のある後継者候補の選抜・育成にはタレントマネジメントの活用を</h2>

企業の成長を見据えて有力な後継者候補を選抜していくためには、役員陣をはじめ、関係者が納得できる透明性の高い選抜プロセスが必要です。主観や人間関係のしがらみに左右されず、企業課題の解決を見据えた後継者候補を選ぶために、タレントマネジメントの活用がおすすめです。

HRMOSタレントマネジメントは、従業員一人一人の能力やスキル、評価などを一元管理して可視化します。データを蓄積し続けることで、将来の経営を担う後継候補を選抜できるだけでなく、不足しているスキルや組織課題も特定して、育成プログラムの計画にも役立ちます。

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