【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法

最近よく聞くようになってきた言葉、「タレントマネジメント」。組織論の文脈などで興味を持っている方もいれば、CMやメディア、本などでたまたま耳にしたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。なんとなく聞いたことがあるものの、「人事担当者が人事データを活用して何かをする」くらいまではイメージを持っている方も多い一方、「その内容についてきちんと知らない」「まだまだ自分の会社には関係ないのでは?」と思っている方も多いのではないでしょうか。

今回は、タレントマネジメントについての基本知識や注目されている背景、効果やメリット、自社に合うタレントマネジメントシステム導入・比較方法を紹介します。

タレントマネジメントとは?

タレントマネジメントとは、企業や組織が従業員のスキルや能力、経験を最大限に活かし、組織目標の達成に結びつけるための戦略的な人材管理を指します。単に人材を管理するだけでなく、従業員一人一人の成長と活躍を支援し、持続的なパフォーマンスを引き出すことを目的とします。

ヒューマンリソース(HR)とタレントマネジメントは、いずれも人材管理の分野ですが、焦点やアプローチに違いがあります。以下の表でその違いをまとめます。

ヒューマンリソース(HR)タレントマネジメント
定義人事業務全般を管理する総合的なシステム人材のスキルや才能を最大化する戦略的アプローチ
目的労務管理、給与管理、採用、福利厚生の管理組織の目標達成に向けた人材の活用と育成
主な業務内容採用、勤怠管理、労務コンプライアンス人材の評価・育成、配置、リーダーシップ開発
データ活用勤務時間や給与などの事務的なデータを管理パフォーマンスやスキルを分析し、配置や育成に活用
対象企業全体の人事労務システムの運用ハイパフォーマンス人材や潜在的リーダー候補の育成
アプローチ主にオペレーション中心(採用、給与処理)経営目標に直結した戦略的な人材管理
管理対象の視点労働力としての人材の管理「才能(タレント)」としての人材を見つけ出し、最大限活用
目標組織運営の効率化と法令順守持続的な組織成長と人材のモチベーション向上
システム例勤怠管理システムや給与管理ソフトHRMOSタレントマネジメントのような人材開発ツール

ヒューマンリソースは、企業全体の人事に関するオペレーションの効率化に重きを置きます。給与計算や勤怠管理、採用活動の事務処理などが中心です。主な目的は、法令順守と企業運営の安定化です。

それに対して、タレントマネジメントは各従業員の能力やパフォーマンスを最大限引き出し、組織の成果に結びつけることに焦点を当てます。将来のリーダー候補を育成したり、従業員のスキルアップを支援するための戦略的なアプローチです。

ヒューマンリソースが日常的な人事管理に焦点を当てているのに対し、タレントマネジメントは、経営戦略に基づく人材活用に特化しています。両者は補完的な関係にあり、組織の安定した運営と持続的な成長のためには、両方のアプローチをバランスよく活用することが重要です。

タレントマネジメントの歴史

タレントマネジメントの歴史は、高度経済成長期から現代にかけての人材観の変遷を反映しています。当初、人材は組織の「コスト」として捉えられていましたが、やがて「資源」や「投資対象の資産」へと認識が変化しました。1980年代以降、低成長期に入ると、人材は組織の戦略的資源として重要視されるようになりました。1990年代のバブル崩壊後は、ヒューマンキャピタルの概念が登場し、個々の従業員を会社の重要な「資産」として評価する考え方が広まりました。2000年代以降は、個人の能力や資質を重視する「タレントマネジメント」が浸透し、人材の質を中心とした新しい人事戦略が展開されています。

詳細な歴史や背景については「【タレントマネジメントの背景と進化】人材マネジメントの歴史とシステムの目的」で詳しく紹介しています。

日本企業におけるタレントマネジメントの位置づけ

日本企業におけるタレントマネジメントの位置づけは、徐々に変化しつつあります。従来は、ヒト資源を代替可能な労働力商品として見なす「人事労務管理」と捉えられていましたが、「人的資源管理」 へと考え方が変わってきました。さらに、ヒト資源の秀でた才能に焦点を当てるタレントマネジメントへと変化してきています。

さらに、最近では一部の秀でた才能を持つ人材だけを対象にしたものではなく、従業員個人の潜在的な才能や資質を引き出すことがフォーカスされるようになってきました。

また、経済のグローバル化にともない、多様な人材活用と柔軟な人事制度の構築が課題となっています。経済産業省が発表した「人材マネジメントの在り方に関する課題意識」においてもグローバル化やデジタル化、少子高齢化の進展により、従来型の評価モデルに歪みが生じているとされています。

今後、日本企業におけるタレントマネジメントの位置づけは、さらに重要性を増すでしょう。人手不足が深刻になる中で、必要な人材を確保して定着率を上げるためにも、タレントマネジメントの果たす役割は大きくなるでしょう。ダイバーシティやインクルージョンという観点からも、タレントマネジメントの重要性が認識されつつあります。

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タレントマネジメントの目的

タレントマネジメントを行う目的は、企業の戦略目標を達成するために人材の能力を最大限に引き出し、育成・配置することです。タレント(人材)に着目し、人事施策を実施し、一人一人が活躍できるような環境を整えることで、組織全体の継続的なパフォーマンスの向上を狙います。

そのためには、人材採用や育成、適材適所への配置、人材の定着を目指した施策を実施する必要があります。例えば、能力開発プログラム研修の実施等、キャリア開発が挙げられます。

経営目標の実現

タレントマネジメントの最も重要な目的は、企業の経営目標を実現することです。優秀な人材を適切に活用することで、業績向上や競争力の強化につなげます。具体的には、個人の能力を最大限に発揮してもらうことで、生産性を向上させるなどです。

経営目標を実現するためには、将来を見据えた人事戦略が必要です。そのためには、タレントマネジメントの活用が必要となるでしょう。

人材の採用と育成

タレントマネジメントは、人材の採用と育成においても重要な役割を果たします。企業が成長し続けるためには優秀な人材を採用し、育成しなければなりません。

そのためには、今必要とされる人材だけでなく、将来的に必要となるスキルや経験を持つ人材を戦略的に採用する必要があります。潜在的な能力を持つ人材を早期に発掘し、育成することで将来の経営基盤を支えるメンバーになってもらうことも目的の一つです。

適材適所の実現とパフォーマンス最大化

適材適所に人材を配置し、組織全体のパフォーマンスを最大化することも、タレントマネジメントの目的のひとつです。従業員の能力や適性を正確なデータで把握し、最適な配置を行うことで、組織全体の生産性が向上します。

具体的には各部門に求められる要件と、個人のスキルを照らし合わせ、最適なマッチングを行うことです。適性が合致することで生産性が高まり、組織全体のパフォーマンスが最大化されます。

人材の定着とリテンション

優秀な人材を採用し、長期的に組織に貢献してもらうことは、企業の持続的な成長につながります。タレントマネジメントの目的のひとつは、こうした人材の定着とリテンション(維持)につなげることです。例えば、適切な評価制度や報酬体系の整備、キャリア支援などは、従業員の満足度とモチベーションを高めます。

また、それぞれの価値観やキャリアゴールに応じた経験の機会を与えることも、長期的な定着につながるでしょう。このような対策を講じれば、組織への帰属意識が高まり人材の流出を防げます。

タレントマネジメントが注目されている背景

タレントマネジメントが注目されている背景は、経済・社会環境の変化や働き方の多様化といった要因が大きく影響しています。以下に、その背景をまとめます。

1.少子高齢化に伴う労働者不足

日本で進んでいる少子高齢化に伴い、労働力人口とされる15歳以上で労働の能力と意思を持つ者の人口が減少傾向にあります。これにより、従業員の一人一人の生産性向上・パフォーマンス向上が必要不可欠となっていることから、タレントマネジメントが必要となってきています。

2.働き方改革の推進

VUCA時代における個人のキャリア観の変化や働き方の多様化により、早期離職者の増加や長期雇用の難化も見られ、従業員と企業のエンゲージメント向上・強化が今まで以上に重要になっています。

3.グローバル競争の激化と人材の多様化

グローバル化が進むに伴い、企業間の競争は国内外を問わず激化しています。このような状況下で、企業が競争優位を保つためには、多様な人材の活躍が欠かせません。国際的な視野を持つ人材を戦略的に育成・配置することで、グローバル市場での競争力強化につながるのです。

タレントマネジメントは、人材の多様化に対応するためのツールとしても注目されています。導入することで、国籍や文化の異なる従業員の能力を適切に評価することが可能です。さらに、グローバル人材の育成を促進する上でも活用できます。

4.HRテクノロジーの進化

HRテクノロジーの急速な進化も、タレントマネジメントが注目される大きな要因となっています。これまで、手作業では対応しきれなかった大量の人事データを、AIやビッグデータ解析技術を活用することで、効率的かつ正確に処理できるようになりました。また、AIを活用した人材マッチングシステムなどで、膨大な候補者の中から最適な人材を効率的に見つけ出せるようになっています。

さらに、従来は手作業で行っていた評価や分析作業などをシステム化することで、他の業務に注力する時間を確保できるようになりました。結果的に、タレントマネジメントの質と効率が大幅に向上し、重要性がますます高まっています。

5.人的資本の情報開示

人材不足や価値観の多様化によって、企業における「人的資本」の価値が高まっています。

人的資本とは、企業や組織における人材のスキル、知識、経験、健康、意欲などの総合的な価値を指します。これは、企業の競争力や持続的成長を支える重要な資源とみなされ、教育や研修によって高めることができます。また、企業や組織が人材(従業員)に関する情報を投資家や関係者に透明に伝える取り組みが「人的資本の情報開示」です。

2018年に人的資本に関する情報を外部および内部に開示するための国際標準規格「ISO30414」が制定され、2020年には米国証券取引委員会(SEC)が人的資本に関する情報開示を義務化しました。日本では、2023年3月期から、大手企業を中心に人的資本に関する情報の開示が有価証券報告書で義務化されています。

人的資本の情報開示に関わる業務の中で最も大きく増えるのは、データをとることです。人的資源の情報開示は株主向けのものなので、開示をする主体としては経営企画です。しかし人材に関する業務は基本的に人事が担っており、自社の人材に関する情報を最も把握しているため、開示に向けて現場の人事も手を動かす必要があるでしょう。

そこで、社内の人材データを集める業務を情報開示のためだけに行うのではなく、情報を統合してタレントマネジメントに活かすという企業も増えてきています。

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「人的資本の情報開示」で変わる、人事の役割とは?

経営戦略や事業戦略と同じように、人事戦略や組織戦略を考える上でもデータの重要性が意識されるようになってきています。

経営戦略や事業戦略の領域では、データに基づき経営課題や事業課題を特定し、目標達成に向けたシナリオを描くということが当然に行われています。ならば人事戦略や組織戦略においても同様に、データに基づき人事課題や組織課題が議論され、企業や事業の成長を実現するためのシナリオを描くことが今後ますます求められるようになっていくのではないでしょうか。

人事戦略とは単なる労働力の再配置ではない、ということを経済産業省の片岸様にインタビューした記事もあります。こちらも合わせてご一読ください。

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タレントマネジメントで解決できる課題

タレントマネジメントを行うということは、新しいことを始めるということではありません。この章では、具体的に人事のどのような業務が関係し、どのような課題の解決が期待できるのかについて見ていきましょう。

「ヒト」を起点に人事データを見る

タレントマネジメントの対象範囲は個人を例にとるとわかりやすいでしょう。

一人の従業員の採用から入社後のオンボーディング・人事異動・半期や通期ごとの人事評価・能力評価に基づく報酬の決定・日々の勤怠、そして退職手続きまで。組織内における従業員のライフサイクルに合わせて取得するデータが一元化され、そのデータを活用した意思決定が行われている状態を目指すことがタレントマネジメントです。一見するとタレントマネジメントには関係のなさそうな勤怠や報酬のデータもタレントマネジメントには欠かせないものです。

これまで人事データは、採用や評価など人事に関するイベントや業務単位の「コト」を起点に管理されていることがほとんどでした。そのため、一人の従業員に対して、採用時の評価と入社後の評価のギャップがなかったか?、モチベーションの推移と人事異動の履歴や人事評価、勤怠データ・保有スキルや能力に相関はないか?といった、特定の「ヒト」を起点に複数の人事データを並列に見る、一人の従業員を多層的に捉えられている企業があまり多くありませんでした。タレントマネジメントを行う際は、集める人事データ自体は今までと大きく変わりませんが、「ヒト」を起点に複数の人事データを見ていくことになるという点を押さえておく必要があります。

従業員を把握できていない組織課題

ここまで、タレントマネジメントの範囲は、現在の人事業務の延長線上にあるとお伝えしましたが、同じようにタレントマネジメントで解決できる課題は特別なものではなく、多くの企業が抱えている「組織課題」があげられます。

下記は、企業が抱えるよくある課題を分類したものです。

例えば、「キーパーソン不足」「大量離職」「モチベーション低下」は、従業員一人一人のスキルや能力、キャリアプランが把握できていないため、適材適所に人材を配置できず発生することが多いです。

このように、組織が抱える課題には、必ずその要因に関係している人事業務があり、その人事業務を通じて収集したデータを活用することで課題解決への糸口を見つけることができます。タレントマネジメントの導入・実践事例は、後半でご紹介します。

タレントマネジメントの効果・メリット

タレントマネジメントの効果・メリットは、以下のようなものがあります。

1.採用のミスマッチ防止

タレントマネジメントで、ポジションごとのスキル要件を詳細に設定し、候補者のスキルや経験と一致するかどうかを事前に確認します。これにより、スキルや経験が不足している候補者の選考を防ぎます。

また、在籍している従業員のデータを分析し、優秀な従業員がどのような特徴やスキルを持っているかを把握し、それに基づいて新しい候補者を評価することができます。これにより、活躍しやすい人材の特徴をモデル化し、採用に反映させます。

2.満足度・モチベーション・エンゲージメント・能力向上

人材の持つスキルや経験、希望等を反映した配置を行うことにより、従業員が活躍できる機会を増やすことができます。これにより、従業員はモチベーションを持って働くことができ、結果的にモチベーションやエンゲージメントを向上することができます。また、適切な人材を配置した上で育成を行うことで、従業員のスキルや能力が向上する可能性も高まります。

3.従業員の離職率の低下

タレントマネジメントは、人材の特性やスキルを活かして育成・配置するために、従業員がやりがいを持って業務に取り組むことができます。これにより従業員のモチベーションが高まり、責任感や達成感を得ることができます。また、それぞれが生き生きと働く職場はチーム力やエンゲージメントの向上にもつながるため、結果として離職率の低下につながります。

4.人材育成と後継者計画

タレントマネジメントを活用することで、個人のスキルや経験が可視化され、育成計画が立てやすくなります。そうすることで、従業員のスキルアップを図りつつ、将来的に企業の将来を担う後継者の育成も効率的に行うことが可能です。後継者計画は組織の持続的な成長に不可欠です。将来的に主要なポジションに適した人材を段階的に育成していくことで、円滑な世代交代が進めやすくなります。このように、組織の持続的な成長と安定的な運営にはタレントマネジメントが欠かせません。

5.採用コストの適正化

タレントマネジメントで従業員のスキルやポジションなどを可視化することで、活躍している従業員を分析しやすくなります。それにより、スキルベースでの採用要件を明確化でき、会社に合う人材を採用しやすくなります。主観や印象による採用を行わないため入社後の採用ミスマッチを防止でき、結果的に採用コストの適正化につながります。

タレントマネジメントの活用事例

ここまでは、タレントマネジメントの概論やタレントマネジメントシステムがどのようなものであるかについてお伝えしてきました。ここからはより具体的に、実際にタレントマネジメントシステムを導入している企業・タレントマネジメントを実践している企業の事例についてご紹介していきます。

WILLER EXPRESS様

業界:運送業

事業概要:高速バス「WILLER EXPRESS」の統括管理・運行

従業員数:542名(2019年6月時点)

WILLER EXPRESSでは、全国の8つの営業所それぞれで従業員情報を表計算ソフトや紙で管理しており、社内統一のデータベースが無く、従業員の経歴や所属が全体では不透明で社内の人材活用ができていない状態でした。

そこで、バラバラに点在する情報を一元管理するため、タレントマネジメントシステムの導入を決定しました。ドライバーが所属するという事業特性から、従業員の健康管理が経営課題に直結していました。そのため、従業員の健康状態も一元管理できるようにカスタマイズ性の高さを重要視して、システムを選定しました。

データを整備して活用へつなげることは、ある程度時間のかかることではありますが、すぐに見られる効果もあります。従業員情報がひとつのデータベースの中で閲覧可能になったことで、他拠点に連絡する際に相手の顔がわかると社内コミュニケーションが活発になりました。

今後の目標は、それぞれの経歴や経験、スキルを踏まえて、パフォーマンスの出しやすい環境などと相関を見出すことです。人材配置はもちろん、採用の段階から自社に適した人材を採用できるでしょう。

また、組織内のポジションをHRMOSタレントマネジメントで可視化させることで、ロールモデルづくり、個人のキャリアプラン形成に役立てたいと考えています。詳しくはこちらをご一読ください。

内部リンク:人事データ活用最前線【WILLER EXPRESS株式会社】

三菱ケミカルホールディングス様

業界:製造業

事業概要:総合化学メーカー

従業員数:約42,000名

三菱ケミカルホールディングスの事例です。42,000名という数の従業員のデータをどのように管理しているのか。その困難や工夫について見ていきましょう。

三菱ケミカルではもともとは人事データをアナログに管理していましたが、2019年頃から人事データ活用への動きを本格化させました。三菱ケミカルが人事データを一元化して管理したのは、従業員数が多いことに加え、3社合併の経験や世界中へ拠点が広がっていることなどから、組織や場所を横断して人材情報を把握する必要があったからでした。

長期的には「データドリブンな人事」を目指し、それまでの道のりを5つのフェーズにわけて、各フェーズでのやるべきことが詳細に決められています。

上記の図から、環境整備やデータ収集にはある程度の時間をかけていることがわかります。2019年の取り組み開始から、約2年かけてデータの分析ができるようになっています。

従業員エンゲージメントの向上、適切な人材配置など、データ活用によって可能となることはさまざまありますが、三菱ケミカルでは一度にすべてを実現できたわけではありません。人事のスペシャリストとデータのスペシャリストが協力して段階的に体制を整えてきたといいます。

注力したものは、2019年にリテンション分析、2020年にはテレワーク開始による生産性への影響調査です。ただアンケートをとるだけではなく、アンケート結果を分析することで、リテンションに関しては定着阻害要因、テレワークに関しては生産性への影響因子などの要因を探り、仮説立てを行いながら、改善へつなげました。

三菱ケミカル様の取り組みについて、詳しくはこちらをご一読ください。

<関連記事>人事データ活用に向けて知っておきたいポイント

ニトリホールディングス様

業界:小売業

事業概要:インテリア家具、生活雑貨などの製造・販売

従業員数:約4,000名

ニトリホールディングスのタレントマネジメントは、独自に行っている「配転教育」という教育方針がベースにあります。配転教育とは、従業員が数年おきに必ず異動をする仕組みのことです。「ジョブローテーション」とは異なり、専門性を高めることを目的に異動を行います。

まず重要視するのが、従業員の将来やりたいことです。漠然とした目標やビジョンを描いてもらい、その目標とそれまでの経歴やスキルといったデータを掛け合わせて、その人の配置やその部署で学んでほしいことを明確にしていきます。この過程においてはタレントマネジメントシステムの活用が必要不可欠とのことです。

なぜそのような取り組みをされているのか?ニトリホールディングスの組織開発室 室長の永島氏に伺いました。詳しくはこちらをご一読ください。

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【ニトリホールディングス/永島氏】タレントマネジメントは一人ひとりが生み出す付加価値の最大化-前編-

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タレントマネジメントを成功させるポイント

1.企業が抱えている問題点を明確にする 

タレントマネジメントを成功させるためには、まず企業全体が抱えている問題点を明確化することがポイントです。問題点を明確化する際には、繰り返しブラッシュアップして問題点の精度を高めていってください。また、問題点を数値化・データ化するなど、具体性を持って対処することも大切です。

<関連記事>KPI(重要業績評価指標)とは?何の略?OKRやKGIとの違いも含めて解説

2.従業員の理解を得る

タレントマネジメントを導入する前に、在籍する従業員に理解を得ておくこともポイントとして挙げられます。

3.成功事例を参考にする

成功事例から学ぶことも、タレントマネジメントを成功させるためのポイントです。成功事例を参考にすると、より具体性を持ってタレントマネジメントを導入・運用できます。ちなみに、以前まで各グループ会社ごとに人事評価を行っていた大手企業が、タレントマネジメントを導入して人事評価を全社で統一したという事例があります。人事評価を統一したことで、より適材適所に人材を配置できるようになり、結果的に企業の業績アップにつながっていったという成功事例です。

<関連記事>タレントマネジメントの成功事例3選!導入効果を詳しく紹介

4.失敗事例を参考にする

失敗事例を参考にすることで、事前に対策すべきことが分かるため同じように失敗することを避けることができます。

例えば、必要な人材要件を明確化していなかったために、人事と担当部署が適切な連携がとれなかったという事例があります。結果的に、適切な人材を採用できず、目的としていた企業の業績アップにつながることはありませんでした。

その他には、事前にタレントマネジメントシステムについて社内で理解を得られないまま導入してしまい、運用に必要な従業員情報を入力してらえずシステム活用ができなかった失敗事例もあります。

<関連記事>タレントマネジメントの失敗事例11選!失敗理由と成功のポイントを紹介

タレントマネジメントの導入方法とステップ

タレントマネジメントのはじめ方についてご紹介します。タレントマネジメントを行うために、やるべきことは次の3つです。ステップごとに行動指針や注意点があるので、参考にしてください。

ステップ1:データベースの構築

はじめに、データベースを構築する必要があります。構築にあたって、ツールやシステムの選択が必要です。集めた情報には個人情報が多く含まれているため、使いやすさはもちろん、セキュリティ面も考慮する必要があります。システムの選定方法については、後ほど解説します。

ステップ2:データの収集・蓄積

次に既存データのクレンジング作業を行います。クレンジングとは、データの入力ミスや重複などを修正し、データの正確性を高める作業です。クレンジングが完了したら、新しいデータを収集して追加していきます。データが不足していたり、古かったりすると正確な分析ができません。そのためにも、最新データの収集が不可欠です。

ただし、従業員データを収集する際は個人情報保護の観点から、利用目的の明示と同意が必要です。個人情報を提供する側の従業員の中には、情報を明かすことに対し否定的な人もいます。そのため「何に利用するのか」「何の情報を集めるのか」を明確にして協力してもらうことが大切です。

ステップ3:データの分析・特定した課題に対するアクション

人事データを収集してシステムに入力すれば終わりではありません。従業員の状況は常に変化しているため、システムの導入後も定期的な情報の見直しが必要です。例えば、新たな資格の取得や人事異動、昇格などが挙げられます。データをもとに評価したり進捗を確認したりするため、その都度更新し最新のデータにしておかなければ正しい判断ができません。

人事データの管理や収集、運用体制づくりに関しては、こちらの記事もあわせてご一読ください。

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タレントマネジメントシステムとは

タレントマネジメントシステムは、従業員のスキルやコンディション、組織全体のエンゲージメントを管理し、組織の生産性を向上させるための統合的な人材管理システムです。人材の採用から育成、評価、キャリアプランなどを管理します。一般的な人事管理システムと似ていますが、以下の点が異なります。

人事管理システムは人事業務に特化し、業務の効率化と基本的な情報管理が目的です。例えば、表計算システムや紙でバラバラに管理している従業員データを一元化して使いやすくしたり、転記ミスを防いだりなどができます。一方、タレントマネジメントシステムは、人事管理システムの機能に加え、情報分析による従業員の能力開発と組織力の強化を目的としており、利用範囲は単なる人事管理にだけに留まりません。

人材戦略に基づいた経営を行う上で、タレントマネジメントシステムは欠かせない存在といっても良いでしょう。

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タレントマネジメントシステムの比較方法

タレントマネジメントシステムを選定する際には、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。以下の4つの観点から比較することで、自社に最適なシステムを見つけられるでしょう。

  1. 使いやすさ
  2. 費用対効果がよいか
  3. 他システムとの連携ができるか
  4. サポート体制が整っているか

タレントマネジメントシステムの使いやすさは、導入後の運用に大きく影響します。例えば、直感的に使えるかや、カスタマイズしやすいかは重要なポイントです。また、導入には一定のコストがかかるため、費用対効果を意識しましょう。初期費用、運用費用、サポート費用などを総合的に評価し、予算と照らし合わせて検討が必要です。

さらに、人事データは会社の基盤となる情報を管理するため、給与や勤怠、経費、採用などと連携して管理することで、業務の効率化につながります。そのため、他システムとの連携が可能かどうかも重要です。

タレントマネジメントシステムの運用は、何かとわからないことがあります。そのため、サポート体制も、重要な比較ポイントです。サポート問い合わせ時間やメールやチャット、オンラインメーティングに対応しているか、マニュアル、アップデートやバージョンアップの頻度などを確認しましょう。

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タレントマネジメントの今後の展望

タレントマネジメントは、企業の人材戦略において重要な役割を果たしています。今後は以下の3つが進み、さらに企業経営において不可欠なツールとなるでしょう。

  • 個人情報の保護
  • AIの活用
  • 従業員の多様化への対応

これらの要素を取り入れることで、より効果的な人材マネジメントが可能になると考えられます。

個人情報の保護

今後の企業経営において、従業員の個人情報や業績データの管理は不可欠です。しかし、これらのデータを活用する際には、プライバシーの保護や倫理的な配慮が重要になってきます。人事部門は個人情報保護法の内容を十分に把握して、日々の業務を行うことが不可欠です。また、人事部門以外の従業員にも基本的な内容を理解してもらうための教育を行う必要があります。

多くの企業が紙や表計算ソフトなどで人事情報を管理していますが、セキュリティを強化するために、情報は一つのシステム上で管理するのが望ましいでしょう。従業員に関わるさまざまな情報を管理するため、細かく閲覧権を設定するなど個人情報の管理体制の整備が不可欠です。

AIの活用

タレントマネジメントの分野でもAIの活用が進んでいます。AIを活用することで、従業員一人一人の潜在能力を見出すことが可能です。また、将来必要となる人材要件を把握し、計画的な採用計画を立て、育成することにも活用できます。このように、従来は人の手で行っていた作業をAIに任せられるようになりました。

AIは、客観的で公正な評価が可能で、膨大なデータの収集・分析が自動化できるため、タレントマネジメントと親和性が高い点が大きなメリットです。

一方で、AIの判断には偏りが生じる可能性もあるため、AIの分析結果だけに頼らず、最終的な意思決定は人の手で行うことが必要です。AIを上手に活用することで、より高度なタレントマネジメントが実現できます。

従業員の多様化への対応

グローバル化が進む近年では、多様な人材の活用が欠かせません。タレントマネジメントでも、今後は多様性が重要となるでしょう。そのため性別や国籍、文化の違いを尊重し、多様な人材が活躍できる環境の整備が必要です。また、働き方改革によって、給与や待遇面以外の価値を重視する人も増えました。

そのため、出社してオフィスで働くことを前提に策定された採用基準の見直しや、多様な働き方を重視した人材評価制度の構築も必要です。このように、組織全体で多様性を受け入れる文化を作ることが、今後のタレントマネジメントには求められます。

タレントマネジメントの今後の展望についてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。

<関連記事>タレントマネジメント(システム)の市場規模と今後の展望を解説

まとめ

タレントマネジメントは、企業の人事戦略において重要な組織づくりのための取り組みです。本質は人材の採用や育成、評価などの人事業務をデータに基づいて改善することにあります。改善を行うことで、生産性の向上や組織の活性化が実現可能です。ポイントは「ヒト」を起点に、複数の人事データをさまざまな角度から見ることです。

また、近年は多くの企業がタレントマネジメントシステムを活用しています。導入により人為的ミスや業務負荷を軽減し、効率的なデータベースの構築が可能です。システム選定の際は、情報の一元管理によって業務効率化が図れるか、自社に適した運用ができるかなどを重視しましょう。

さらに、今後はAIの活用や多様化する従業員への対応も必要です。同時に、人材データの収集や活用においては、目的を明確にし事前に共有するなど従業員への配慮も欠かせません。このような状況を踏まえ、タレントマネジメントの必要性がますます注目されています。

導入することで、従業員の成長と企業の競争力向上の両立を実現できるでしょう。

具体的な導入事例は、こちらの記事で紹介しているので、実際に企業がどのように活用しているのかを参考にしてください。

<関連記事>タレントマネジメントシステムの導入事例

日本の長寿企業におけるタレントマネジメントを解説した、下記の記事もぜひご一読ください。

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タレントマネジメントはHRMOSがおすすめ

HRMOSタレントマネジメントは、従業員の情報を一元的に管理し、各従業員のスキルや能力を数値化することで客観的な評価が可能です。活用することで、イメージや先入観に左右されないフラットな評価が実現し、適切な人材配置や納得感のある評価が行えます。

さらに、スキルの可視化により潜在能力を引き出し、経営目標の実現に向けた人材配置が可能です。

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